7-92【地下空洞にて2】



◇地下空洞にて2◇


 コォォォォォォォ――と、風が鳴り響く。


「洞窟の中でも、こんなに風があるなんてっ……」


「どこからか、吹き抜けになっているのですよ。それが迷路のような洞窟内で回って巡廻し、こうして音を鳴らしているんです」


 階段を下り切ると、ジルリーネは壁に杭を打つように何かを取り付けた。

 するとその何かは、途端に明かりをはっした。


「――まぶっ……す、凄いわねその石」


「【明光石】と言う、太古の昔から存在する明かりをはっする石です。一度点灯すると、一生光り続けると言う代物なので……時と場合によっては厄介がられますが」


「まだまだ知らないものだらけね、私」


「仕方ないです。この石は特に、遺物と言う程の物ですし、今の時代は魔力で灯りを着ける魔法の道具も沢山ありますし……ミオの言う、電気……でしたか、それももう直ぐ出来るらしいじゃないですか」


 ミオが作り始めている、街灯もどきの事だ。

 今は頓挫とんざに近い状況だが、【豊穣の村アイズレーン】にはそれをした鉄の棒が並び始めている。


「夜も明かりが消えない、そんな町……トウキョウ、でしたっけ」


「ミオやクラウの言う、前世のお話ね」


 聞いたのは、王国での事件があって、ミーティアを追う【リューズ騎士団】から逃げた後、あのボロボロの拠点でだ。


「凄いわよね、二人の話……まるで御伽噺おとぎばなしのようで、でも……真実だって思った。ミオが元・誰で、クラウが元・誰で、とか気にもしたけど……今私の目の前に居る、そんな二人が好きだから、だから信じる」


「そうですね。突拍子もないと突っぱねることも出来ましたが……真剣に語る二人に噓は無いと、わたしも思います。それに……【女神アイズレーン】が存在するのです、信じない訳にもいかないでしょう」


 転生者という存在が、この世界にはたくさんいる。

 その一人であり二人が、自分たちだと……


「よしと、設置完了だ。目印にはいいだろう……さぁ、行きましょうか」


「ええ。目的の場所は?」


「わたしが案内します。お嬢様は魔物に集中を……ほら、さっそく明かりに反応しましたよっ!」


「……わ、分かったわっ!」


 ゆっくりする間もなく、暗がりに出現した明かりに寄って来る……魔物。

 ぞろぞろと、無数の足音を鳴らしてやって来た。


「行くわっ!見てて、ジルっ!!」


「はい、お嬢様」


 ミーティアの得物えものは弓だ。

 【ステラダ】産の、【魔導弓マギアロー】。

 しかし、今のミーティアは持っていない……それどころか、今回の旅で一度も弓を持っていなかったのだ。


 ミーティアは左手をかざす。

 集中し、魔力を高め、形成する。高まった魔力は右足から高密度に集積し、形を作る。


「――出来たっ!!氷の弓っ!」


 ミーティアは、物理的な装備が必要なくなっていた。

 全て、【オリジン・オーブ】による氷の装備を展開する事が可能になっており、三ヶ月、その訓練をしていた。

 その成果を……発揮する時が来たのだ。

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