7-89【求める物とは2】



◇求める物とは2◇


 【テスラアルモニア公国】。【リードンセルク王国】や【サディオーラス帝国】よりも国土を狭くするが、その膨大な資源力は他国よりも近代的な進化を遂げている。

 特に、国土全土の地下にある大空洞……そこから採掘出来る様々な鉱石や、大昔の遺物は、国の発展に大いに貢献していた。

 しかしそれは――【パルマファルキオナ森林国】から奪い取ったものだと、今や国民すらも忘れ始めている。

 本来忘れてはならない、忌み嫌われる戦争という行為で勝ち取った、負の遺産なのだから。


『……それで陛下。わたしへの依頼と言うのは……』


『そうですね、そうでした』


 娘ジルリーネは仕事スイッチがオンになっているようで、母であるニイフを陛下と呼ぶ。それがなんだか少し寂しくもあり、久しぶりの対面でそういう事しか言えない自分に対しても、物悲しくなる。


『ジルリーネ・エレリア・リル・エルフィン』


 ランドグリーズではない、ジルリーネの本名を呼び。


『――はっ』


『命じましょう。里の地下、【リヨール響窟きょうくつ】におもむき……疑惑のある【テスラアルモニア公国】からの侵入者、その形跡を確かめなさい。そして……地下神殿に安置された我がエルフの秘宝、【精霊エルミナ】の幻晶げんしょうの安否を……確認せよ』


『――承知致しました、陛下』


 【精霊エルミナ】。

 大昔、別の世界から降臨されたと言う、原初の精霊の一体。

 風と樹をつかさどり、エルフ族を長年に渡って守護してきた、由緒ある存在。


『ジルリーネちゃんも、あれが必要なのでしょう?……ミオ殿の身体を、癒すためにね……うふふ』


『――!!敵いませんね……母上』


 一転、笑顔になる女王。

 その言葉は、この三ヶ月ジルリーネが悩んでいた事の終着点。

 言っても百年以上間が開いてしまった、国土地下の状況。

 その過程で失われているかもしれない秘宝の可能性を考えては、危険を顧みることは出来なかったのだ。


『母上がそう仰ると言う事は……やはり』


『ええ。まだ残っているはずです……公国の兵に奪われていなければ、ですが』


『あまりにも広い地下空洞……公国がこの年月、ずっと探していた可能性もありますからね。調べておくことに越したことはありません』


 超大な程の大空洞。

 しかも大樹の魔力によって複雑な迷路と化していたのだ、しかし……里の真下に侵入された形跡があると言うのは、やはり不審だ。


『……所で、この依頼は……わたしだけで行かなければいけないのでしょうか』


『?……それがこの上ない選択と思いましたが……何かありますか?』


 かねてから考えていた事を、ジルリーネは口にする。


『お嬢様。ミーティア・クロスヴァーデン嬢を、連れて行こうと思います』


『……』


 女王は答えないが、何かを考える様な素振そぶりを見せ。


『いいでしょう。許可します』


『――ありがとうございます』


 深くこうべを垂れ、ジルリーネはひっそりと笑みを浮かべた。

 これで、地下神殿に【精霊エルミナ】の幻晶げんしょうがあれば……ミオもミーティアも、両方の悩みを解決できるかもしれない……そう考えるだけで、おのずと笑みが溢れるのであった。

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