7-88【求める物とは1】



◇求める物とは1◇


 ミーティアとジルリーネは、留守を任せるミオとルーファウスに笑顔を送り安心させる。あくまでも安全だと、危険は無いのだと言いたいように。

 しかし、そもそも【リヨール響窟きょうくつ】とは、魔物が出てしまったために封鎖された洞窟だった。

 何十年も昔の事とは言え、魔物は【魔力溜まりゾーン】さえあればいくらでも出現する。きっと今も……巣窟と化しているだろう。


「さ、母上の所に参りましょう」


「ええ!」


 やけに気合の籠った返事をするミーティア。

 それには、多大な理由が含まれていた。


 ミオが脳内会話をし、外に飛び出た後……ジルリーネは母である女王から依頼を受けた。

 それが、【リヨール響窟きょうくつ】の探索だ。


 その詳細な内容とは……





 ミオが外に駆けだして行き、ルーファウスはエリリュアと台所に向かった。

 その隙を見て、女王は娘に述べる。


『ジルリーネちゃん、真面目な話……今回無理を言ってエリリュアちゃんを使いにしたのは、ある頼みごとがあるからなの』


『ミオがあのいきおいで出て行った後に、よく冷静に言えますね……母上』


『うふふ。余裕が大事なのよ?……コホン、続けますよ?』


 マイペースと言うか、自分の空気を持った母に、ジルリーネは苦笑する。


『あ、はい』


 ジルリーネが返事をすると、女王はスッと顔色を変え、真剣な面持ちで。

 それだけで、不思議ふしぎと背筋が伸びる娘。


『……【リヨール響窟きょうくつ】にある、地下空洞……そこに侵入者の形跡がありました』


『……ま、まさか!大樹の加護があるのにですかっ!?』


 この里に来る時にも寄った、エルフの加護をになっている大樹。

 魔除けの力を持つその大樹は、侵入者除けとしても機能していた。


『時期は三ヶ月前……王国の蛮行ばんこうが起きた直後。方角は南……』


『【テスラアルモニア公国】ですか……』


 ジルリーネは腕を組んで考える。

 この里は、【豊穣の村アイズレーン】から東に進んだ位置にある。

 そこから南だとすると、考えられるのは【テスラアルモニア公国】……首都だ。


『ジルリーネちゃんも知っているでしょう?この国の地下は……迷路のように入り組み、隠れるには最適……そして、その地下空洞をきっかけに、あの戦争が起きた』


『勿論です、そしてその情報を……ジェイルが公国の貴族に流してしまった事で、エルフの国はっ……!!』


 感情的になりそうな所、ジルリーネは拳をにぎって押さえ込む。


『……まだくすぶっていますか、ジェイルちゃんへの怒り』


『――!……い、いえ……わたしは、もう許しています。ですが、国が亡くなった事とはまた違います』


 腹違いの兄への怒りはもう無い。

 しかし、国を滅ぼされた悲しみも、やり場のない怒りも、ジルリーネは抱えたままだ。


『ふむ、それはそうかも知れないですね……ですが今は抑えてください。それどころではありません』


『――はい、陛下』


 娘と母ではなく、女王と王女として。

 エルフと言う種族の為……やるべき事とは。

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