7-87.5【アイシアの選ぶ道1】



◇アイシアの選ぶ道1◇


 私は、アイシアが外に出たと聞いてすぐ……回復が微妙な魔力を振り絞って【天使の翼エンジェル・ウイング】を使用して夜空を駆けた。

 結果、空から探せばアイシアは直ぐに見つかった。

 うずくまり、震える肩を押さえるようにして、私をその紫色の瞳で捉えた。


「クラウさん……わたし、あたし・・・……」


「アイシア、落ち着いて……」


 瞳の色が違う。

 アイシアの本来の目色は、赤色……この世界で言う人間族の基本色の一つだった。

 それが今は、完全な紫色。これは……アイズと同じ。


「わたし……いったい誰なんでしょう」


貴女あなたはアイシアでしょう。アイシア・ロクッサ……【豊穣の村アイズレーン】で産まれた、ミオ・スクルーズの幼馴染。他の誰でもないわ」


「でも、あたし・・・は」


「いったい、何があったの?私が聞いてあげる……だから、話してくれる?」


「……」


 うつむくアイシアには、返事をまともに返す余裕すらも無いようだった。

 それだけの事を聞いた、見たのね。


「……少しだけ待ってなさい、飲み物を持ってくるから。いいわね、絶対に動くんじゃないわよっ!いいわねっ!?」


 念押しして、言い聞かせるように。


「……はい」


 力ない声音こわねは、誰でもいいから助けて欲しいと言う……心の底からの救済を求めるものだと、私は思った。





「お待たせ。これでいい?」


「はい」


 商人ディン・トルタンさんの店で購入した、皮袋の水筒に入った何か。

 多分ハーブ系のお茶だと思う……を持って、それをアイシアに渡す。

 因みに支払いはつけにしてもらった。持ち合わせが無くて。


「……で、全部聞いたんでしょ?私とアイズ……【女神アイズレーン】の話。信じるの?」


「……」


 びくりとする。

 聞いた事を鵜吞うのみにしなければ、それで済む。

 信じなければいい、否定すればいい。


「突拍子もない事だって、空想のお話しだって……思わなかったの?」


「……はい。どうしてか、分かってしまうんです……全部本当だって」


 アイシアの事。EYE’Sアイズの事。【女神アイズレーン】の事。

 ミオとミーティアの事。

 全部……本当、真実。


「アイシア、アイズに宝珠ほうじゅを貰ったでしょう?」


「え、はい……これですよね」


 アイズの言った通りだ。

 『あたしはあの子に【オリジン・オーブ】を渡した。お守り代わりになればと思って……使い方は教えてないから、多分自力で発動させたんだと思うわ』と、ここに飛んでくる前に聞いた。


「それはね、【オリジン・オーブ】と言って……貴女あなたを守ってくれるものらしいの。でもね、それは――」


「分かります。これ、私のだって」


 私の。アイシア専用の……初めからそう作られたような、そんな存在。

 アイシアはネックレスのように整えられた【オリジン・オーブ】を取り、手のひらに乗せる。


「……」


 一目で分かる。ミオがミーティアを助ける時に使用したものと……同じ。

 アイズに聞いたところ、あの青色の宝珠は、アイズがミオに渡した物だと言う。

 それと同じように、アイシアにもアイズが渡した……だけど、ミーティアの時とはパターンが違いすぎて……比べようがないわね。

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