7-87【無力な主人公2】



◇無力な主人公ミオ2◇


 時間だ。正午、昼食を摂って直ぐの時間。

 ミーティアとジルさんは二人で準備を始めていた。

 俺はそのそばによって、声を掛ける。


「ティア、ジルさん……準備はどう?」


「あ、ミオっ」


「ああ、準備は万端だ。母上からの依頼とは言え、まさか【リヨール響窟きょうくつ】に行くことになるとはな……思ってもみなかったぞ」


 どんな経緯か、俺は知らない。

 ニイフ・イルフィリア・セル・エルフィン陛下の依頼だと、ジルさんは言った。

 母親の頼みを聞く孝行娘と思えば、これは普通の流れなんだろうけど、場所が場所だしなぁ。


「どんな場所なんですか?その【リヨール響窟きょうくつ】って。昨日少し聞きましたけど、具体的な事は」


 ジルさんは準備の手を一旦止め、俺に説明をくれる。


「ふむ、そうだな……一言で言えば、大昔の鉱山跡……かな」


「鉱山ですか……?」


 って事は、俺に言えないある物・・・ってのは、鉱石かなにかか?


「ああ、戦時前は……エルフ族の武器防具を作成する素材を調達していたよ」


「なるほど、金属鉱石か」


 エルフが使う武器は、魔力重視のものが多いと勉強した。

 まぁゲームとかでも、エルフは魔法にかたよる傾向が多かったよな。


「そうだ。しかし……いや、まぁ昔の事だ」


「?」


「――ミオは気にしないで、ゆっくり休んでいてね。それと……余り考えすぎないでね。きっとクラウや……アイシアだって、大丈夫だから」


 ミーティアがジルさんの言葉の意味を逸らすように、そう言った。


「ん、ああ……ありがとう、ティア」


 自分も大変だろうに、俺やクラウ姉さん……アイシアの事まで気にかけてくれる。


「お嬢様はご自分の事に集中してくださいね」


「う……はい」


 横目でミーティアを見て、釘をさしておくジルさん。

 ジルさんにとっては、今日のミーティアを守る任務もあるからな、人の事ばかり気にしてられないと言うのも当然だ。

 バツが悪そうに笑うミーティアの笑顔に、俺は心の底から安心感を感じていた。


 この子は、本当に変わった。

 前まではどちらかと言えば、誰にでも流される、そんな自分を持たない女の子。

 だけど今はどうだ……自分の事も真剣に向き合い、俺や他の人の事まで視野に入れている。

 ここにはいないクラウ姉さんや、俺が言うのは変だけど、アイシアの事まで。


「頼もしいね、まったく」


「え?なに?」


 小声で言った俺の言葉を聞き取ったのは、長い耳をピクンと動かしたジルさん。

 ジルさんもクスリと笑みを浮かべ。


「お嬢様も成長したと言うことですっ、さぁ!【リヨール響窟きょうくつ】へ向かいましょう、あれ・・があるかは、分からないんですからねっ」


 だからあれって何?

 最後まで分からないままだったその……ある物。

 それが俺とミーティアに、かなりの影響を与えることになる事を、俺はもう直ぐ知る事になる。

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