7-74.5【宿の中で女神は語る2】



◇宿の中で女神アイズは語る2◇


 律儀に床に正座をしていた女神を椅子に座らせて、私もイリアも席に着く。

 この一室は、宿の中でも特別な部屋で、いわゆる高級VIPルームね……こんな村に必要なのかしら。


「さ、何から聞きたい?今なら何でも話しちゃうわよ~♪」


 機嫌よさそうに、アイズはテーブルの上の豪勢な食事を見て言う。

 最近村でも頻繫に出るようになった、牛肉のロ-ストだ。

 赤い断面と滴る肉汁……木の実と果物くだもので作ったであろうソースがふんだんに掛けられていて、とっても……吐きそう。


「うわぁ……美味しそうですね!クラ……ウ!?どうしました!?顔が真っ青ですよっ!!ってそうでした、肉、ですもんね……」


「ああ、気にしないで。私の事はどうでもいいから、アイズ……色々聞かせて」


「いいわよ、機嫌がいいから♪」


「じゃあ……食べながら」


「オッケー。でもいいの?あんたは野菜のマリネそれで」


「これいいの。肉は嫌いだって何度も言ってるでしょ?」


 丁寧ていねいにナイフとフォークで切り分けて、まるで高級レストランの一室での食事だ。


「そだっけ。まぁいいけどね~。それじゃあ……ミオの事から話しましょうかっ」


 そうして、村に戻って初めて……私はこの女神の現状を知る事になる。

 ミオとミーティア、他国で進んだ二人の話と、アイズとアイシア……この村でしか回っていなかった、二人の話を。





 静かな一室で、カチャリと食器が鳴る。

 暗い照明は魔法の道具であり……【サディオーラス帝国】の町から取り寄せた物らしい。私がいない一年で、こうも文明が発展するなんて……と、感慨かんがいふけっていると、アイズが。


「――ミオの現状はあいつにも聞いたでしょ?……最悪よ。自滅に近い行動だし、怒りに任せて暴走した感じだったとはいえ、ミーティアを助ける為に取った行動だもの、とがめはしないわ」


 話の始まりは、ミオの現状。

 ミオの弱まりは異常だと、近くにいる全員が感じているし、それ以上にミオ本人が参っていると思えるわ。


「ミオのあの腕の感じ、そうとう弱っているように感じるけど、どんな感じなの?」


「どんな感じ?そうねぇ、体内の魔力を巡る回路が、【破壊はかい】の能力によって壊されて、自然治癒能力と魔力回復の為のにくべる燃料が作り出せなくなっている感じね」


 ……暖炉とか囲炉裏とか、焼却炉とか、そんな感じかしら。


?私の【魔力超過使用オーバードマジック】とは違うの?」


 アイズは肉を切るナイフを一時止め。


「あんたの【魔力超過使用オーバードマジック】とは違うわ。あんたはあの時、致死に近いミーティアを癒すために、何度も何度も回復魔法をかけたでしょう?あんたの最大魔力を超えて使用した魔力は、現在マイナスになっているようなものよ」


「マイナス……だから直ぐに疲れるのね」


「そういう事。マイナスは言いすぎだとしても、最大魔力が1になっているって考えたら早いわね。最近もそうでしょ?一度の【クラウソラス】使用で、直ぐにガス欠する……だから長期戦は不可能よ」


「どうすれば回復するの?治療の方法は?」


「治し方?……はぁ……黙って療養りょうようしなさい」


 ため息をいて、切った肉にフォークを刺すアイズ。


 元も子もない……それじゃあ駄目なのよ。

 元の世界ならまだしも、ここは異世界……探せばいくらでも――


「やめときなさい。無様に死ぬだけよ」


「……!」


 考えが透けていたのか、考えを完結させる前に釘を刺された。


「――何も出来ない今のミオとクラウあんたたちが、この世界で治療法を探す?馬鹿な考えも大概にしておきなさい」


「ばっ――!馬鹿とは何よ!私は私なりにっ!」


「それが甘いのよ。現代に産まれた人間は、異世界の本当の怖さをしらない……死ぬのがオチなのよ、この世界ではね。ましてや……能力もまともに使えない状況じゃあね」


 モグモグと租借そしゃくしながらも、決定的な否定をするアイズ。

 何もせずに黙って療養……?本当にそれしか無いの?

 私にもミオにも……何も出来ないって言うの?

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