7-46【森の番人1】



◇森の番人1◇


 新しい仲間、ルーファウス・オル・コルセスカ。

 彼を加えてからの俺の森林暮らしも、もう二週間となった……相変わらず右腕の治癒は遅く、何事をするにも監視の目があり……窮屈きゅうくつな思いは変わらないが、これも俺を心配してくれての事だと分かっているからこそ、療養に専念出来る訳だ。


 そんな中で、ルーファウスが俺のやるべき事を代わってくれていたのは多大に感謝を申し上げたい。

 クラウ姉さんとイリアが村に向かってから二週間、何故か二人は戻ってこない。

 何かあったんじゃないかと心配にもなったが、ウィズによれば、リラックスムードで滞在しているとの事。

 いや、リラックスすんなよ……と言いたくなるが、一年振りだもんな。


 と言う訳で、俺も一人の時間が増えたから追及はしないことにした。

 無事だとさえ分かれば、それはそれで休息、あるいは療養になるからな。


 そして、現在の俺はと言うと。


「……お~!!」


 ドッスーーーン……と、熊の魔物が倒れた。

 首を見事に両断されて絶命、斬られた事に気付かないかのような死に様だった。


「……どうですか?僕の剣技」


 魔物を倒したのはルーファウスだ。

 チン――と、刀を鞘に仕舞い、笑顔を俺に向ける。


「いや、マジで凄いよ……あの魔物って、すげぇ皮下脂肪が厚いから切断しにくいって聞いたけど……一撃じゃん」


 聞いたのは今さっき、ウィズからだ。


「そうなんですね、斬った感覚もないんですよ……これ」


 刀――【天叢雲剣あめのむらくものつるぎ】をトントンと指で叩き、腰に慣れた仕草で納刀する。

 その仕草はまるで侍だ……いや、実物は見たことはねぇけどさ。赤毛の侍、カッコイイよ。


「それにしてもさ、魔物消えないけど……なんで?」


「え?」


 ルーファウスの背後に倒れている熊さんは、動物ではなく魔物。

 死ねば【魔力溜まりゾーン】に還るのが常だ。

 それなのに、死体がそのまま残っている。


「前もあったな、こういうパターン……最近多いぞ」


 亜獣【アルキレシィ】や、【エイムザール】の亜獣である魔物も、消えるのが遅かった。

 でもこの熊さんは普通の魔物……だよな?


『――はい。一般的な森林地帯に生息する、【ハウリングベア】です。数は多くありませんが、夜行性で、数十体で集団行動をする習性があります、今回のこの個体は、はぐれたのでしょうね』


「へぇ、熊なのに集団か……怖えな」


「はい?」


「あーいや、脳内会議だよ……あはは」


 ウィズの事は、まだルーファウスに説明していない。

 転生の事もだな……ルーファウスの持つ【天叢雲剣あめのむらくものつるぎ】が特別な力を持つ武器であり、それに近しい武器を俺も持っている事だけは伝えてあるが、今の俺は【カラドボルグ】も【ミストルティン】も出せないからな。


 早く【破壊はかい】の影響……治って欲しいものだね。

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