7-45【歩いてきた】



◇歩いてきた◇


 皇女セリスフィアと【女神エリアルレーネ】、自分があの二人に試される価値があるのか。自信はあった。

 武力はともかく、知力では絶対にこのボケナスには勝っていると、そんな考えも頭の中にはある。

 それ以外にも、他の【帝国精鋭部隊・カルマ】メンバーにはないものを持っていると思っている。

 だが、それは他も同じなのだと……自分にないものを他の人たちが持っているということを知らなければ、自分はいずれ必要とされなくなる。

 生きる場所が帝国であるライネにとって、それは恐怖だ。


 死んだ仲間の事は、話に聞く程度だったが、それが自分にも降り掛かる可能性のある事実だと知らされて、内心ショックだった。

 それを、この脳天気な先輩に諭されたことも……だ。


「お~っし、着いたー!」


「……」


 元気よく声を上げるユキナリに対し、ムスッとするライネ。

 自分を試す試験官がこの男だと言うのが、また苛立ちを加速させる要因だ。


「お~いライネ、折角【ステラダ】に着いたんだから、もう少し喜べよ~」


「一人旅だったなら、両手を上げて喜びますけどね」


「かははっ!!」


 「き、きち~」と、それでもユキナリは爆笑している。

 ライネには分からない、何故笑えるのか。


「それよりも、私はどうして歩いてこなければいけなかったんですかね」


 数々の魔物を倒し続けて、そこから歩きで四日だ。

 森の中だった為、当然馬車がある訳はなく、ユキナリも新たな魔物を【支配しはい】する事は無かった。


「そりゃあ、ピクニックは歩くだろ」


「ピクニックじゃないでしょ……はぁ~もうっ!」

(幻獣クラスの魔物が試験なら、ユキナリが【支配しはい】すればいいのに)


 元気に答えるユキナリに、ライネは冷静にツッコむ。

 自分を試すと言いつつ、素でこういう事をするユキナリに、ため息ものだ。


 現在、【ステラダ】の西門。

 歩く二人に、警備する門番が気付いた。


「そこの二人、止まりなさい」


 しっかりと仕事はするタイプだったようだ。


 しかしそれ以上に、どこの街でも防衛は強化されているだろう。

 国の命令とは言え、軍を素通りさせて起こった徴兵ちょうへいだと言うのは、既に各国に知れ渡っている。

 ましてや王国中で行われた蛮行だ、王家の独断と判断する国もある。


「はい。手形」


 ユキナリが門番に手渡す。

 門番は受け取り、確認。


「……冒険者学生か、外国の人間かな?」


「うっす、こっちは故郷くにの妹です」


 「は?」と、口には出さないが顔に出すライネ。

 まさか自分が、このボケナスの妹として行動をしないといけないとは。と、そのまま顔に書いていた。


「そうか。なんで来たんだ?」


 門番の質問。

 今この状況で、わざわざ王国入りする理由は何か……そう聞いているのだろう。


「――歩いてきた」


「ぶっ……!!」


 清々しい笑顔で言うユキナリに、ライネは吹いた。


「ちょっ……意味が違う!荷物を取りに来たんでしょ!?学校が休みなのは知ってるけど、その間に荷物整理を手伝ってくれって言ってたじゃない!!」


「え?あ~そっか……それですっ」


「もう黙って!――はいこれ、私の分の手形の発行料金です!」


「……はぁ。そうか」


 門番は興味も無さそうに返事をする。

 ライネが渡した金を受け取ると、ライネの通行手形を出してくれた。


「もう……やだぁ」


 ライネは頭を抱えたくなる思いで、門番に説明を始める。

 これも試験だからと、勝手にそう決め込んで。

 そうでもしないと……やっていられなかったのだった。


 かくして、ライネ・ゾルタールは【ステラダ】に入った。

 初めての外国、初めての任務は……困難ばかりだ。

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