7-43【ステラダに帰る男7】



◇ステラダに帰る男7◇


 足をしびれさせたユキナリは、ぴくぴくと眉を動かしながら皇女の声に耳をかたむける。

 そうでもしないと、叫びそうだった。


『いい?今回の任務は特別なのよ?ユキナリに与えられるいつもの任務は、【神告しんこく】によって告げられる。ミリティ……ユキナリのお母さまのお力によってもたらされた結果、それを確認する為のものでしょう?』


『だな』


『……でも、今回は違う。前回の【小さな天使】も【断罪者】も、見つけられないまま』


『い、いや……天使は――』


『なに?』


『……なんでもないです』


 後者の【断罪者】はともかく、前者の【小さな天使】は異議を唱えたい。

 見つけてはいるのだから……結果は嫌われて、断られると言う始末だっただけで。


『今回は【神告しんこく】も発動していませんし……普通に学生を謳歌おうかしてもよかったのですけどねぇ』


 頬に手を当てながら、エリアルレーネがそんな事を言う。

 出来るならユキナリもそうしたかった思いはある。

 冒険者学校とは言え、学生なんて経験はないのだから、多少の憧れがあったからだ。


『そうもいかないのが、今回の王国の動きです』


『そうねぇ』


 ユキナリも聞いたし、今回の任務だって納得して受けた。


『それは分かってるって、だから明日には――』


 明日には出発するのに、どうして正座で話を聞かされているのかという事だ。


『――補佐に付けたライネの事よ』


『ライネぇ?なんで、あいつやる気なかったじゃん?』


『……それが問題なんですよ?ユキ』


 『はい?』と、ユキナリは分かっていない。

 それを教えるために、皇女は真剣に言う。


『今回の任務如何いかんによっては……戦争が起こる可能性があるのよ。それも、結構な確率で』


『……』


 ユキナリは戦争否定派ではない。

 過激で面白そうな事はしたいし、自分が楽しければいいと考える、まさしく幼稚な子供のような発想を持っている。


『ライネは、今までわたくしの護衛やセリスの護衛をしてくれていました……それが、今回初の外国任務です。しかもユキの補佐なんて……胃がいくつあっても足りません』


 『おい』とツッコむユキナリを無視して、女神は続ける。


『可愛いライネを危険にさらすのは気が引けます……わたくしは神とは言え、この国のまつりごとに口出しは出来ませんからね』


『そこで、エリアルレーネ様の心配事を減らすために考えた結果、ライネをユキナリに鍛えさせようと言う答えに至ったわ』


『はぁ?』


 ユキナリはとうとう正座を勝手に解除して、胡坐あぐらを掻いた。

 ライネを鍛える?自分が?と、明らかに不満を顔に出す。


『不本意ですが、実力だけ・・ならユキナリが一番です。やってくれますよね、ユキナリ』


 つまり、エリアルレーネはライネを自分の傍から離れさせたくはない。

 しかし今回の任務は国からの指示であり、エリアルレーネは口出しできない。

 外国で死する可能性もある事は、誰でも考えられる事だが……問題はライネの性格と実力だ。


『【アロンダイト】を持つあの子は強いですが、実戦経験は少ない……もしもの事を考えれば、ユキの傍で学ぶのが一番なのですよ』


『俺にライネを守れって事じゃなくて?』


『そうではないわ。それでは強くなれないもの』


 断言するセリスフィア。

 無茶苦茶だ……死ぬほど心配はするが、それ以上に実戦を積んで、もっと強くなれと言っているのだから。

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