7-41【ステラダに帰る男5】



◇ステラダに帰る男5◇


 魔物が【魔力溜まりゾーン】に還り、ドロップしたアイテムをライネが拾うと、後方から声が。


「……お~、すっげぇなぁ」


 気絶していたはずのユキナリが、顔だけ向けてこちらを見ていたのだ。

 まるで……全部見てましたとでも言わんばかりに。


「――起きてたなら手伝ってよ、ボケナス!!」


 ライネがグシグシと、涙を拭いながら叫ぶ。

 ゆっくりと起き上がったユキナリへ声を荒げたが……


「かはは!やっぱりお前の【アロンダイト】の副作用、面白いなぁ!」


「うるさいわね!仕方ないでしょっ」


 【アロンダイト】の副作用は、異常なまでの涙腺の弱まりだった。

 剣を振るい、紋章を書く度に発生し、視界が滲むほどに涙を流す。

 レベルが上がれば量が減るらしいが、現在はそれほど減ってはいないのだとか。


「戦闘中に視界が塞がれるとか!致命的じゃん、かっはっは!」


「――このっ!」


 自分の特典ギフトの弱点を笑われ、ライネは、ユキナリに拳を振るった。

 しかしブン――と空振り。


「かははは!当たんないって!」


 ユキナリも、数分休んだ程度だが回復したらしく、動いてライネの拳を避けた。

 そしてユキナリは助走をつけて。


「――そいじゃあ!【ステラダ】にダッシュだ!」


「はぁ!?まだ距離が……って早!」


 既に走り出したユキナリ、ここがどれほどの位置か理解しているのだろうか。

 ライネは頭を抱えたくなる思いで、ゆっくりと追うことにした。





「それにしても、起きてたなら加勢してくれてもよかったんじゃ?」


「そう言うなって。俺にも色々とあるんだよ」


 【ステラダ】に向けて、現在は歩きだ。

 距離はまだある。ここは【サディオーラス帝国】の東部から少し北に位置する場所だ。最東端の【豊穣の村アイズレーン】は更に南東部で、村に寄らずとも【ステラダ】には行ける。

 問題は、その道が森林だという事か。


「色々?気を失っていたんじゃないの?」


「振りだよ、ふ~り!」


 ライネの隠れた目尻が、ヒクッと揺れた。


「最悪だわ……」


 苛立ちと恥ずかしさに、ライネはそっぽを向いて歩きを早めた。


「あれ?理由聞かねぇの?」


 意外な反応に、ユキナリは含み笑みを浮かべる。

 それが分かっているから、ライネも無視したいのだが……


「……言え」


「おいおい、俺……先輩だって」


「ぐっ……教えて」


「お~ん?なんだってぇ?」


 イライラのバロメーターが振り切れそうだった。

 しかし、ユキナリが独断で何かを考えた訳はない。

 理由があるのはきっと、国か皇女……どちらかの思惑おもわくなのだろう。

 だから、キレる訳にはいかない。


「教えてください。せ・ん・ぱ・い!!」


 これ見よがしに大きな声で、上目遣いで、憎しみを籠めて呼んだ。

 だがユキナリは、それでいいのか笑顔で。


「かはは!常にそれなら可愛いのになっ!」


 そう言って、何故自分が狸寝入たぬきねいりをしていたのかを語った。

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