7-39【ステラダに帰る男3】



◇ステラダに帰る男3◇


 旅は順調だった……ユキナリが操った飛行型魔物の背に乗り、大空をかける。数日で帝国領の半分を制す事が出来たのは、この魔物を操るユキナリのおかげなのは確かだ……しかし、ユキナリの背にしがみつくライネは。


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!高い!怖い!落ちるぅぅぅぅぅぅ!」


「――だぁぁぁぁあ!腹を押すな!出ちまうだろぅが!!」


 魔物の背で阿鼻叫喚あびきょうかん

 大型鳥獣にはくらもなく、背の体毛にしがみ付く形の二人。


 ライネは高所恐怖症。ユキナリは【支配しはい】の副作用で腹痛だ。


「さいってい!!汚いわねボケナスっ!!」


「お前が押すからだろ!それとまだ出てねぇよ!それに今日で何日目だと思ってんだよ!そろそろ慣れろよぉ!」


「――仕方ないでしょ!自分が高所恐怖症だって、初めて知ったんだから!!」


 ライネ・ゾルタール……前世では、秋元あきもと果南実かなみと言う名の女性だった。

 沿岸育ちで、都会などには出た事も無い様な田舎で一生を過ごした。

 飛行機など乗った事も無い様な人生だったのだ。


「だからって俺にしがみ付くなよ!腹痛いんだぞ!」


「だって!!」


「やべっ……そろそろ【支配しはい】が切れる!降りるぞっ」


 ユキナリはそう言い、魔物を急降下させる。

 その速度は当然高速、かかる重力も多い。


「わぁぁぁぁぁ!馬鹿!馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿ぁぁぁ!!」


「るせぇ!バカバカ連呼すんなぁぁぁ!」


 しがみ付かれて圧迫される腹の痛みをこらえて、ユキナリは魔物を操作する。


「あ……やべ……」


 グラ~っと、ライネの後ろに倒れ込むユキナリ。


 魔力切れに加えて、重力の圧。

 それに腹を圧迫された衝撃で……ユキナリの意識は、持って行かれた。


「――え!!ちょっ!ユキナリっっ!噓でしょ……噓でしょぉぉぉぉぉぉ!!」


 そしてそのまま、二人で森に落下していった。





 気を失って倒れるユキナリ・フドウ。

 【支配しはい】から解放された魔物は、自分をいい様に使った人間を睨み、食い殺そうとその翼を大きく広げて威嚇していた。


 ザッ――と、倒れるユキナリの前に立つ……ライネ・ゾルタール。


「……このボケナスが魔物に食い殺されようが知った事ではないけど……【カルマ】のエースである事だけは否定できない」


 キュラララァ!


「まったく、どうすればこんな魔物を使役しえきできるのよ……」


 大きい体躯たいくは人間の数倍、帝国には生息していない。

 そんな魔物を何体も操り、自分の力とするユキナリの能力は確かに強力だ。しかもその数に制限はなく、固有の力を持つ魔物の力を無数に抱えているのだ。

 しかしユキナリの【支配しはい】には、副作用も多い。


「操った魔物は、【支配しはい】の影響から逃れれば凶暴になる……ね」


 かばうように立つライネも、落ちた衝撃で多少の眩暈めまいがあったが、落ちる瞬間に自分を庇ったのがユキナリだと分かっているからこそ、こうして助けるのだ。


 キュラララァァ!!


「まずはこの魔物を叩く!ユキナリ……起きた時に魔物がいないとか言わないでよね!!」


 右手を前にかざし、ライネは構える。

 そして、自分に授けられた転生の特典ギフトを呼ぶ。


「――顕現けんげんなさい……聖剣――【アロンダイト】!!」


 ライネの魔力を元に、円形状の紋章が出現する。

 紋章は空間を引き裂き、魔力を結晶として具現ぐげんする。


 現れたのは、青い刀身の長剣だ。

 透き通るほどに研ぎ澄まされた……両刃の聖剣。


 それが転生者ライネの、転生の特典チートギフトだ。

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