7-38【ステラダに帰る男2】



◇ステラダに帰る男2◇


 王国へ戻る途中で呼び戻されたユキナリは、【ルーマ】と呼ばれる神の道具で連絡を貰った。

 目と鼻の先……まさしくそんな場所で連絡を受けて、帰らざるを得なくなったユキナリが苛立つのも理解できるが、それから二ヶ月だ。

 徴兵ちょうへいの日から数えて三ヶ月、帝国の動きが確定するまで、ユキナリは行動を制限されていたのだ。


「ようやく動けるってのに、今度は王家の動向ねぇ……戦争ならそのままやればいいんじゃないのか?」


「そうもいかないのが、我が国の考えなの。歴史ある帝国では、むやみやたらに戦いを受け入れる訳にはいかないのよ」


 胡坐あぐらのまま、今回の任務について思う所を言うユキナリ。

 と言いつつも、内心ではそこまで考えてはいないだろう。

 セリスフィア皇女は姿勢の良いまま椅子に座り、地べたに座る二人に続けて言う。


「今回はあくまで王国の動向を探る事が任務だから。今時徴兵ちょうへいだなんて強引な手腕……おろかな国かどうか、それを探ります」


「それでなんで俺だけなのさ姫さん、ロイドやゼクスは?」


 他にも仲間はいる。

 転生者の部隊である【帝国精鋭部隊・カルマ】は、少数精鋭ながら、強力な転生者の集まりだ。


 その中でも、ロイド・セプティネと言う最年長の男は強い。

 男性三名の内、ユキナリしかここに居ないのは、何か理由があるのか。


「ロイドは皇帝陛下の護衛に出てるわ、ゼクスはエリアルレーネ様のお付き……おわかりいただけて?」


「……はい」


 静かな圧だ。

 普段セリスフィアはユキナリに甘い。と言うよりも、恋に近い感情を向けて来るのだが、今日はまったくそれがない。


 そんな様子の皇女に、もう一人の転生者ライネ・ゾルタールが言う


「セリスフィア殿下は、ご自分が王国へ行きたかったんでしょう?」


「――違います」


(噓だ)

(噓でしょ)


「そんじゃあそんなに怒んなって、可愛い顔が台無しだぜ~?」


「か――!!」


 沸点上昇。急激に顔を赤くし頬が緩む皇女は……チョロかった。


「そんなことよりセリスフィア殿下、このボケナスはともかく、どうして私もここにいるのでしょうか?……任務はユキナリだけですよね?」


 「おい」と言うユキナリを無視して、ライネ・ゾルタールは長い前髪から覗かせる瞳で皇女を見る。

 すると皇女は「ふふん」と笑みを浮かべて。


「流石ねライネ、実は……任務とは別に、ライネにお願いをしようと思って」


「……はい?」


 「あ~嫌な予感」と、ユキナリは両手を床について言っているが、二人にはもう聞こえてはいない。


「そのお願いとは……?」


「ふふっ。そのお願いは――」


 こうして、ライネ・ゾルタールは……


「私の代わりに、ユキナリの補佐をしなさい!!一緒に【リードンセルク王国】へ行って!」


「ええ……」


 ユキナリと共に、【リードンセルク王国】へおもむく事となった。

 初めての外国、初めての遠出、それが……【帝国精鋭部隊・カルマ】一の問題児、ユキナリ・フドウの補佐という形で。

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