7-37【ステラダに帰る男1】



◇ステラダに帰る男1◇


 その日、【リードンセルク王国】の数々の場所で、余りにも強引で強制的な徴兵ちょうへいが起きた。

 この事件は他国でも大きく広まり、近隣諸国は戦争の準備だと非難を始めた。

 それはここ……西の大国、【サディオーラス帝国】でも同じであり……


「――命じます、【帝国精鋭部隊・カルマ】の将よ」


「「はっ――!!」」


 ここは帝国の転生者が集まる、その拠点だ。

 ひざまずき返事をする二人は、ユキナリ・フドウとライネ・ゾルタール。

 命じる者は、帝国の皇女……セリスフィア・オル・ポルキオン・サディオーラスだった。


「では命じます――ユキナリ・フドウ。帝国皇女、セリスフィア・オル・ポルキオン・サディオーラスの名において……再び王国へおもむき、リードンセルク王家の動向を探りなさい」


「――その任、拝命しました。セリスフィア皇女殿下……」


 こうべを垂れたまま、黒髪の少年は椅子に座る皇女に返事をする。

 言葉を声のまま聴けばまるで、謁見えっけんの間で皇女に命じられる騎士のような会話だが……


「もうよいですよ……ユキナリ、ライネも」


「うっす」

「はい」


 二人が顔を上げると、そこはいつもの部屋だ。

 【帝国精鋭部隊・カルマ】のメンバーが普段から使っている、大部屋。

 皇女がいても、ここは謁見えっけんの間ではなかった。


「形式は整えたし、もういいわよね……はぁ、まったく」


 セリスフィア皇女は、嫌気の刺した顔で二人に言う。

 それに合わせて二人の仲間……部下も疲れたように。


「マジできっつい……これが一番嫌なんだよなぁ」


「それは同意です、不本意ですけど」


 長い前髪を指でサラッと流し、ライネはユキナリと同じ意見を嫌がる。


「なんでだよっ!」


 膝を崩し、胡坐あぐらをかいて文句を言うユキナリ。

 後輩にいいように言われるのはいつもの事だが、今回は腹の虫の居所が悪いのだ。


「――俺はわざわざ戻って来たんだぞ!?もう直ぐで王国入りする所だったのに!」


「知りませんよそんな事。私に関係ないです」


 呆れた顔で、ライネは苦言をていするユキナリをおざなりに扱う。

 そんな邪険にされたユキナリに、一人椅子に座るセリスフィアは。


「ごめんなさいユキナリ。せっかく休暇を終えて学校に戻る所だったのに、【ルーマ】まで使って呼び出して……」


「……あ~いや、姫さんが謝る事じゃないし」


 後頭部を掻きながら、ユキナリはバツが悪そうな顔で皇女に言う

 すると隣のライネは、したり顔で。


「そうですよ殿下。ユキナリが勝手に出発して、勝手に呼び戻されただけですから」


「ぐっ……そうだけどよ!もう少しあんだろ!?結構遠いんだぞっ、【ステラダ】!」


 そうである。ユキナリ・フドウは、【ステラダ】の【王立冒険者学校・クルセイダー】に通う一年生だ。

 冬の間に戻る予定が、王国の徴兵ちょうへい事件が起きて帝国でも問題となり、王国へ戻る途中のユキナリを再び呼び戻したのだった。

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