7-36【敵でないならそれでいい】



◇敵でないならそれでいい◇


 救ってもらった人への、恩返し。

 それが……ジェイルがダンドルフ・クロスヴァーデンに付く理由。


「じゃあ、ジェイルは私たちの……敵なの?」


「……いや、どうだろうな」


 笑うジェイル。ニヒルに笑うジェイルの表情は、重々しくも、覚悟を持ったものに見えた……それがなんだか、決定的なものに見えて。


「どうだろう、って……分からないって事は、味方ではない……でも、敵でもないって事でしょう?私たち、いえ……ジルの敵に、なるの?」


 人の取り方によっては様々な解釈を取れるが、私はそう考えることにした。

 それに、どれ程の事があったのかは分からないが、百年近く仲違いをしていた兄妹が、今の時代共に居れる事を……無碍むげにはしてほしくない。


「ジルには恩がある。それこそ、コメットの息子であるダンドルフに、俺を紹介してくれたからな……だから断言は出来ん。だが……少なくとも俺は、お嬢様の保護に協力するつもりはない。コメットへの恩を返すまで……俺はダンドルフに協力をする。商会への協力という形でな」


「……そう、ならそれでいいわ」

(商会への協力、それはつまり戦闘はしないという事でいいわよね?ジルへの恩って言うのも、きっと順番に返していくんでしょうね……コメットさんへの恩を返した時、きっとジェイルは私たちに……ジルに協力してくれる)


 それだけでもありがたい。

 保護とは言うけど、実際に【リューズ騎士団】がやろうとしたことは人攫ひとさらいだ。

 きっと、ミーティアの事も同じ手法で狙っているはず。

 一つ違うのは、【リューズ騎士団】がただの騎士ではなくなっている、という事ね。


「商会は基本的に今までと同じ行動だ……だから動くのは勿論、【リューズ騎士団】だろう……ダンドルフはすでに指示をしている可能性もあるが、【ステラダ】には駐留ちゅうりゅうしていなかった」


「という事は、まだ王都にいる……?」


 私は腕を組んで考え込む。


 まだ動いてないって事は、ミーティアの確保は最優先じゃないって事よね?

 三ヶ月前に失敗したから?それとも他に何か……優先事項が?


「どうしたクラウ」


「いえ……会長が何を考えているのかと思って。ミーティアよりも優先するような事って、何?」


「戦力の増強だろう。聞いた話によると、【リューズ騎士団】も被害を受けたらしいからな……【ステラダ】と、確か東の【カレントール】だったか」


「私たちのように、歯向かった人たちもいるのね」


 身の危険を考えない行動だわね。

 その言葉は自分の背中にも刺さっているけれど、誰でもやれる事じゃないわ。

 【ステラダ】に冒険者学校の生徒たちが大勢いるように、その【カレントール】って町にも、ラクサーヌのように反攻して【リューズ騎士団】を撃退した人がいるという事なんだ。


「ああ。全滅だったらしいぞ……中には特殊な力を持った騎士もいたらしいが、そいつらも帰らなかったとか」


 特殊な力を持った……転生者ね、きっと。

 でもまだ、ジェイルには言えないわね……ミーティアやジルには話したけど。


「俺の話は終わりだ。今はお前たちの敵ではない……だが、味方もしてやれん。俺は自分の任務……【クロスヴァーデン商会】の仕事をする」


「ええ、それだけで充分だわ」


 立ち上がるジェイル。


「そろそろ戻ろう――レイン」


「――え。あ!はいっ」


 ジェイルの声に、存在を空気にしていたレイン姉さんがビクッと返事をする。


「そろそろおいとまさせて頂く。ルドルフとレギンを呼んでくれるか?」


「はい、かしこまりました」


「……じゃあなクラウ。お嬢様とジルには……」


「言わないわよ。ジェイルが昔の義理を果たそうと考えている事は」


 私はニッと笑う、まるでミオのように。


「……そ、そうか」


 なによその不気味なものを見たような顔……ムカつくんですけど。

 そう短く返事をすると、ジェイルはレイン姉さんの後ろを追った。

 この後パパママに挨拶をして帰るのだろうか。


「あ……クラウっ」


「ん、イリア……家は見終わった?」


「はいっ、ミオとクラウのご両親にも挨拶をさせて頂きました。あの……と、友達と」


 両の指先をつんつんと合わせて、恥ずかしそうにイリアは言う。

 そこで恥ずかしがるんじゃないわよ。


「友達でいいでしょ……それよりも、ジェイルはジルのお兄さんなの。だから、一先ずは敵じゃなかったわ」


 私はイリアにジェイルとの話をした。

 その後は、家で一泊をする予定……早く帰ってミオたちに伝えないと思いつつも、一年振りの帰郷は心地よくて、家族との話も、知り合いとの話もしたいと思っていた。


 そして何より、アイズに色々文句を言ってやりたいから……

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