7-35【ジェイルの借りの返しかた3】



◇ジェイルの借りの返しかた3◇


 全てを失ったジェイル。

 どれだけの時間を放浪したのか、それは分からないけれど、死をも考えた彼が今もこうして生きているのは、その女性ひとのおかげなんだろうと、私は思った。


みにく醜態しゅうたいさらした俺は、とある集落で魔物に襲われた……普通に考えれば圧倒できるような、そんな弱い魔物に襲われて、今度こそ死ねると覚悟……いや、救われると思った。その当時、裏切り者の俺を追って来る同胞はらからもいたからな……」


 同族に殺されると言う終わりも出来たはず……それをしなかったのは、何故だろう。


「追って来たのは、ジルだった……当時はまだ、冒険者だったな」


「え」


 ジルが……ジェイルを殺そうと?

 確かにジルは、ジェイルに当たりがキツイ時があった。

 何かしら理由があると言うのも、ミオの話で聞いたけど……


「父である国王が死に、俺の母も死んだ……生き残ったのはジルの母、現女王だ。くにを焼かれた民草は数百の命を残して、バラバラになった。だから……これからの種の存続は危ういだろう。それでなくとも、エルフは子供が出来にくい……だから、さっきの女……お前の仲間を見る奴らは悪い事を言うだろう?」


「イリアの事……ハーフだって気付いてたの?」


 しれっと見てたのね。


「種が危ういエルフだ。それでなくても少なくなってしまった人口を、ハーフは更に衰退すいたいさせる要因だと言う。世間的に、そんなエルフが多かったのは事実だ」


「じゃあ、ハッキリ聞くけど……ジェイルは?」


 どう思っているの?ハーフ――イリアの事。


「……俺はどう思う事もしないさ。そんな浅はかな考えは出来ん……してはいけないだろう、国を滅ぼす原因を作った俺が、種をどうこうは言えんさ。そんな立場ではない。それに……愛は種族に関係ない」


「へぇ……」

(凄く意外な答えだわ……愛とか言うなんて)


 でも……少なくとも今は、良くも悪くも思おうとはしていないって事かしら。

 それならそれでやりやすいわね。下手にイリアをさげすまれちゃ、私だっていい気がしない。


「話を戻す。俺は同胞ジルの追手からみじめに逃げた……傷を負い、泥に塗れ……とある集落で行き倒れた。そしてその集落で出会ったのが……コメットと言う少女だった」


「コメット……って、まさか」


 ピンとくる。

 彗星コメット……隕石ミーティア


「その通りだ……コメットは、ダンドルフの母親だ。ミーティアお嬢様の祖母に当たる」


「その人との出会いが、今ジェイルが【クロスヴァーデン商会】にいる……理由?」


「――そうだ。救われたんだ……俺はコメットに、あの子に」


 彼が物憂げな理由……分かってしまった。

 そしてそれと同時に、先程の「愛」と言う言葉、エルフと人間の決定的な相違そういを、打ち付けられた気がした。


「……好き、だったの?その人の事……」


「……ふっ……そうだな。きっとそうなんだろう……だから、俺はダンドルフのそばにいる。コメットの子である、あの馬鹿者の事を……放っては置けないんだ」


 ジェイルは、ダンドルフ会長に借りを返している。

 その借りは、きっと五十年以上前……ダンドルフ会長が産まれる前からあった借り。

 ミーティアの祖母に当たる少女に救われた……一つの愛の形だ。

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