7-33【ジェイルの借りの返しかた1】



◇ジェイルの借りの返しかた1◇


 馬鹿みたいな睨み合いは、唐突に終わってしまう。

 いや……続けたい訳ではないけれどね。


「――クラウ。お前とミオが、お嬢様やジルと一緒に居るという事は、俺はもう知っている事だ」


「……っ!」


 どうして今まで、こんな馬鹿みたいな私の自問自答を見ていたのか。

 突然告げられた言葉は、確信をもって伝えられた言葉だった。


 一気に気を引き締められた。

 自分勝手な問題を抱えそうになった私の気持ちは現実へと一瞬で帰り、血の気が引いていくような空気をただよわせるジェイルの視線を、その身で受けた。


「冷静になったようだな。今言った事……ダンドルフ・クロスヴァーデンには伝えていない。しかし、あの日の状況や今までのお前たちの関係を考えれば、おそらくダンドルフも気付いてはいるだろう」


「ええ……そうでしょうね。それは私たちも……分かってるわ」


 だから【ステラダ】から逃げているのだから。

 でもジェイルはそこまで分かっていて、どうして会長に伝えないの?


 私は、先程までの自分を恥ずかしく思いながらもソファーに座り直した。

 ジェイルも対面に座る。あ……ため息かれた。

 く……恥ずいし情けないわね、情けをかけられた感もあるし。


「先も言ったが、俺は今日……契約の更新をしに来たんだ。これはダンドルフの命令だが、俺はそれにしたがっている。だが……お嬢様の保護は頼まれていない」


「え?噓……ではないのよね?」


 コクリとうなずくジェイル。

 それと同時に、外からコハクがイリアを連れて戻って来た。

 コハクがいると話しにくいわね。


「コハク、お客さんをパパとママに紹介してくれる?」


「はーいっ」


 私の言葉にイリアは無言でうなずいた。理解が早くて助かるわ。

 さて……ここからは私もふざけられないわね。


 両親の部屋へ行く二人を見届けて、私は。


「ごめんなさい、続けてくれる?」


「ああ。ダンドルフは確かに、【リューズ騎士団】を買った。王国への手土産にな……どうやら数年も前から準備をしていたらしいな、あの男は」


「数年前?それって……」


「十年近く前だ」


「十年……それじゃあ、あのミーティアの約束なんて」


 はなから、ミーティアとミオの関係なんて眼中になかったという事だ。

 ミーティアに聞いた話、婚約者の事もそう……辻褄つじつまが合う。

 以前から既に用意してあったんだ、もしくは、計算されていた。


「約束なんてもの、ダンドルフは守る気などはない……その豪胆ごうたんで憎らしい程の手腕が、あいつが王国でのトップ商人になれた武器だからな。手早く言えば、腕のある嫌われ者なんだよ……あのダンドルフと言う男は」


 嫌われ者、ならやっぱり敵も多いはず。

 ミーティアを思う気持ちは本物なのかもしれない、でも。

 やり方は絶対に認められない。認めたくもない。


 それと、ジェイルはどうしてそこまで言うのに……


「じゃあ……そこまで言うのに、ジェイルはどうしてダンドルフ会長のもとに居続けているのよ?」


「……」


 ジェイルは目をつぶった。

 何かを考えるように、思い出すように。

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