7-32【休む間もなく4】



◇休む間もなく4◇


 当然聞き覚えがあるこの声は、先程外でも話に出た末妹コハクだ。

 一気に気が抜けた私は「ふぅ~」と息を吐いて、台所にいるレイン姉さんに。


「私が行くわ、コハクに会うのも久しぶりだし……おどろかせようかな」


「ほ、ほどほどにね……?」


 分かっていますとも。

 レイン姉さんの心配そうな顔は目に入ったが、私もジェイルとの会話で色々と疲れた。だから少しだけ気を逸らすために、可愛い妹とスキンシップをしようかなって。


「――ねぇママー、外にお姉さんがいたけ……ど」


「おかえり、コハ……ク……??」


 玄関から歩んで、破壊された扉を気にもせずに入ってくるコハク。

 私は正面で待機し、一早く目に付く位置を取っていた。

 私の目に映るのは……視線を同じくした、まだ十二歳のはずの……妹?


「「え?」」


 そのおどろきは、いったいどちらが大きかったのか。

 おそらく私だ。だって、コハクが……


「ク、クーねえちゃん!?」


「あ……うん」


 ちーん……そんな音が私の中で鳴った気がした。

 末の妹にすら、身長を越されました。

 そしてそれ以上に……目立つのは、大きなふくらみだった。


「クーねえちゃんっ!久しぶりだねっ!!」


 がばちょっ――!と抱きつかれた。そこまではいい、そこまではいいのよ。

 問題は……少しだけ高い位置でぶつかり、私の胸に乗る……コハクの胸だ。


「わぁぁ!嬉しいなぁ!クーねえちゃんだー」


 バッシバシと背中を叩く妹。

 虚無きょむになりそうな私、居たたまれそうなレイン姉さん。

 「はぁ」と、短く嘆息たんそくするジェイル……控えて言っても、ひどいものだった。





 ズーーーーーン。


 空気の重い、そんな時間だった。

 ソファーに座り直した私は、両手で頭を抱えて大股で自問自答をしていた。


(どうしてこうなった……私だけ?私だけが、この家で子供体型なの?おかしくない?おかしいわよ、遺伝って何?性格とかコハクは私に似ていたのに、なんで越されたの!?一年?たった一年で身長も胸も、越されたんだけど!!)


「おい、クラウ」


(コハクは私と同じ、リトルシスターだと思ったのに!なんで大人っぽくなってるのよ!しかも……なんだかすっごく可愛くなってる!!理不尽なんだけど!くぅっ!)


「クラウ。聞いているのか!?」


「――何よ!!こっちは家庭の問題で死にそうなんだけどっ!!」


「まったく……お前、話をしなくていいのか?こっちはお前が落ち着くまで待ったんだぞ、流れを断つ悪手だな……分かっているのか!?」


「ぐぅ……だって、こっちは死活問題なんだけど!!妹に身長越されたのよ!?」


 くわっ!と、私は涙目でジェイルに迫った。

 因みにだけど、コハクはまた外に行った……イリアを連れて来てもらいに。


「知るかそんな事っ!いずれ大人になれば誰だって成長はするだろうが!」


 二人で立ち上がり、見下げて見上げて睨み合う。

 冷静に考えれば、なんて馬鹿なやり取りだろうか。そしてジェイルも何故、ここまで私に付き合っているのか。

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