7-30【休む間もなく2】



◇休む間もなく2◇


 階段を上がり、一旦イリアに合図。

 視線だけでうなずき合い、私は家へ入る。


「――ただいま」


 魔力の反応はない。

 【リューズ騎士団】の可能性も充分に考慮して、いつでも【クラウソラス】を発動できる位の魔力は残ってる……威力は最低限にしても、もし……あの何度も立ち上がるチャラ男だったら、【クラウソラス】は効きにくい。


「……話し声……パパと、この声は――まさかっ!」


 低く響く声には、聞き覚えがあった。

 下腹部に響くような、魅力のある声。いわゆるイケボなんでしょうね。

 その声が聞こえた瞬間、私はドアを蹴破ってリビングへ。


 バンッッ――!!


「――ジェイル・・・・!!」


「……」


 「「「ク、クラウ!?」」」と、三人同時に声を上げておどろいたのは、パパとママとレイン姉さん。


「……」


 その背中は、変わってはいない。

 修行と称して、私は何度もこのダークエルフの青年に負けている。

 そんな背中越しに私を見ると、ジェイル・グランシャリオは口を開いた。


「来たかクラウ。よもやお前が来るとはな……ミオはどうした」


「……いないわよ」


 一先ずは安心ね。もし反応を感知されただけで敵意を出されちゃ、今の私ではどうしようもない。


「そうか。お嬢様は?」


「知らないわ……」


 やはり聞くわよね。でも、私を捕まえようともしないの?


「はぁ……取りあえず家族と話せ。見てみろルドルフとレギンの顔を……」


「――え」


 言われるままに見てみると、ジェイルの対面に座するパパと、その隣のママの顔が青ざめていた。台所の方でお茶をれていたのか、レイン姉さんはトポトポとお湯をこぼしていた。


「……あ、あれ??」


 この感じ、どうやら選択ミスをしたのは……私のようだ。





 真っ先に行ったのは、両親への謝罪だった。

 その後はレイン姉さんにほっぺを引っ張られて、「相変わらずね」と頭を撫でられた。ねぇ……なにが相変わらずなのかを説明してよ。


「久しぶりだと言うのに、お前もミオも……変わらんなぁ。安心したような、少し残念なような、なぁレギン」


「そ、そうねぇ……もう少しおしとやかになってくれれば嬉しいんだけど」


 パパとママがそんな事を言う。

 そんな事を言われても困るわ。


「ごめんなさい、少し込み入っていて……乱暴な帰宅をしてしまったみたい」


 扉は後で直します、蹴破ったので。

 そんな謝罪をしつつも、私は視線をジェイルから離さなかった。

 警戒と言うよりも、ほぼにらんでいたかも知れないわね。


「俺の方は話は終わったからな。お前がゆっくりできるまでは待つさ」


 なんでそんなに余裕ぶっているの?

 貴方あなたは【クロスヴァーデン商会】……ミーティアの敵になる可能性が、私たちと敵対する可能性があると言うのに。

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