7-29【休む間もなく1】



◇休む間もなく1◇


 走り出した私たちに慌てる兵士。

 名前も聞いていない彼に何かを言うまでも無く、実家へ駆け出す。


「イリアっ、【ステラダ】からの客……誰だと思う!?」


「わ……分かりません!」


 ガクッと肩から滑りそうになった。

 この子……意外とノリとその場の勢いでやってない?


 でも、まぁそうか。

 イリアは、私がこの村の村長の娘って事を知っていても、その村長のもとに誰が来るかなんて、理由までは考えない。考えなくてもいいものね。


「ウチは農家なのよ、契約しているのは一社……じゃなくて一商会。ミーティアの所よっ……なら、訪問してくる可能性が高いのは!?」


 走りながらだから大きな声で話しているけれど、変じゃないわよね?


「えっと……ク、【クロスヴァーデン商会】ですよねっ」


「そう!だからヤバいのよ……ミーティアを探している可能性もあるし、あの一件から考えたら、野菜の契約を破棄される事も考えてたっ。それが今かもって事!」


 【クロスヴァーデン商会】が何を考えているかが分からない。

 あの日【ステラダ】で襲って来た騎士たち……【リューズ騎士団】はミーティアの父、ダンドルフ・クロスヴァーデンが取り仕切っているとも知ったし、あの人は今や王国の大臣閣下だ……豊富な資金力を考えれば、ウチの野菜なんて無くてもやっては行ける。


「ミオも言ってましたね!いつ首を斬られてもおかしくはないって!」


 隣に並ぶイリア。随分と早くなった、私に並ぶなんて。


「そう言う事!もしかしたら“こういう事”もあるかもって説明をするって、ミオと話をしていたんだけど……意外と早かったわ!」


 パパやママに、【ステラダ】で起きた事を……【クロスヴァーデン商会】との関係が破綻しかけている事を話す機会を作る前に、先手を打たれたかもしれない。

 なら先にやっておけって言いたいでしょうけど、私たちにも色々あるのよ。


「大きな建物が見えてきましたっ!あれがそうですか?」


「そう……――って!あれは……やっぱりっっ!」


 見えたのは実家の村長宅。

 ミオが作った木造高床式の別荘風の家。

 良く言えば現代風のコテージ、悪く……じゃなくて古く言えば縄文式。


 そして私の目に映ったのは、その家に横並びされた……一台の馬車だった。


「【クロスヴァーデン商会】の……ですね」


「そうね……」


 家の前で止まり、息を落ち着かせる。

 私は多少肩で息をしているけど、イリアは平気そうね……少し悔しいわ。


「……他は見当たりませんね、この一台だけです」


 周囲を警戒する余裕もある。

 もしかしたら、イリアは意外と頼りになるのかもしれないと、私は思い始めていた。今までハーフだって馬鹿にしてきた奴らの鼻っ柱を、折っているイリアを見て。


「イリア。外の警戒を任せていい?」


「――はい」


「よかった……頼りにしてるわ」


 ポンっと背中を叩いて、私は家へ。


「――は、はいっ!!」


 頼んだわよ。まだ他の誰かがいる可能性もあるし、これから来る可能性だってあるんだからね。

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