7-15【追跡者1】



◇追跡者1◇


 猿の亜獣を一刀で斬り伏せた、そんな追跡者は、半分に別たれた亜獣の間から顔を覗かのぞかせた。


 カチン――と、剣を仕舞った音が聞こえた。

 それに合わせて、俺は。


「誰だっ」


「――すみません。おどろかせてしまいました」


 森の木々の影から外れて、その姿が見える。

 立っていたのは、困り顔の青年だった……いや、少年か?


 短めの赤髪に、身形みなりの良い服装。

 背は俺よりも少し低く、童顔。


「あんたは、この猿を追ってた?」


「はい。一体逃げてしまって……途中で【魔力溜まりゾーン】を吸収して、巨大化してしまいまして」


 それで亜獣に進化したのか。

 突然現れる訳だ。


「それは災難だったな。でも……こんな、瞬殺じゃないか」


 分断された亜獣の遺体は、徐々に【魔力溜まりゾーン】に還り始めている。

 これはあれだな、【アルキレシィ】の時もそうだった。

 亜獣は、普通の魔物と違って……一瞬で【魔力溜まりゾーン】に還る訳じゃないのかもしれない。


「あーいえ、それはこれが……あるからです」


 そう言って、赤髪の少年は手に持っていたものを俺に見せる。

 それは……鞘に入れられた剣。

 しかし、柄は紐でくくられていた。

 金属のままにしておく、この世界の剣にはありえない整え方。

 それ以上に、転生者おれたちには馴染みしかない……その剣は。


「――?」


「――し、知ってるんですかぁ!?」


 シャラン――


「おわぁぁぁっ!」


 赤髪の少年は困り顔をおどろき顔に変え、俺に刀を抜き放ってこちらに向けて来た。

 敵意は感じなかったから、身構える事は無かったけど……心臓が跳ねた。


「急に向けるな!ビックリするだろ!!」


「――す、すみません!!嬉しくて!」


 嬉しくて?刀を知っている事が?

 って事は、この男も……俺と同じ?

 その刀は……転生特典ギフトか。


「お前、転生者か……?」


「……はい?転せ……なんです?」


「え?」

「は?」


『……』


 少年はマジで戸惑とまどって、困り顔に戻った。

 いやいや、困惑なのはこっちだから。


「その刀、あんたのじゃないのか?」


 転生の特典ギフトだったなら、戦闘後に特殊な光に包まれて魔力に戻って、消えるんだけどな……この男は刀を消す素振そぶりすら見せない。


「これですか?いや、これは僕のではなくて師匠ししょうのなんです」


 チン――と、時代劇やゲームで聞いたような音を鳴らして刀を再度、鞘に納める。

 笑顔で刀を見るその眼は、どこかうれいを帯びている気もした。


師匠ししょう……?」


『――ご主人様。この刀は……【天叢雲剣あめのむらくものつるぎ】です。転生の特典ギフトで間違いではありません。ですが……この人物は』


 【天叢雲剣あめのむらくものつるぎ】……って、めちゃくちゃ有名じゃないか。でも確か、【天叢雲剣あめのむらくものつるぎ】はこんな刀っぽいフォルムじゃなかったんじゃないか?

 どう見ても日本刀だぞ……これ。


『調整されたんだと思います。所持者の思う形状へ』


 ウィズの言葉に内心でうなずき、俺は男に視線を。

 すると男は、刀を撫でながら言う。


「はい。でも嬉しいなぁ……師匠ししょうの愛したこの剣を知っている人が居るなんて!」


「お師匠さんの……それが?」


「はい!」


 満面の笑みで。

 いやマジで童顔……子供みたいだ。

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