7-5【動けるって素晴らしい5】



◇動けるって素晴らしい5◇


 ガタン――!


「……お嬢様っ!!」


 急激な変化は、いつおとずれるか分からない。

 それはミーティアの身体にも同じことで、ミオが自室に戻った瞬間……それは起こった。


「――あ……ぅ……」


 立ち上がろうとした瞬間。ミーティアは急激な眩暈めまいに襲われて、倒れた。


「お嬢様っ!しっかり……」


 ジルリーネが直ぐにミーティアのもとへ駆けよるが。

 既に意識はなく、全身から冷気をはっしていた。


「――っ……」


 冷気がジルリーネの身体にまとわり、凍傷を負う一歩まで。それほどまでに強力な冷気だった。


「以前よりも魔力の質が上昇している……それなのに、どうしてお嬢様は何度も意識を手放すのだ……!」


 ミオもクラウも、イリアも気付いている。

 ミーティアもおそらくだが、皆に気付かれているとさっしているだろう。

 それでも言わないのだ。頼らないのではない……自分が一番のお荷物だと、ミーティアは思っているのだ。

 だから自分で活路かつろを見出す為、痛めつけるように努力をしている。


「……お嬢様……」


 苦しそうに目を瞑り、マイナスを超える冷気を放ちながら気を失う。

 もう何度目だろう……何度失神し、何度嗚咽おえつで涙を流したか。

 この三ヶ月で、数えきれない程のそんな姿を目にしてきたジルリーネ。

 何とかできないものかと、考える。


「せめて、もっと設備がいい所に……」


 【ステラダ】には居られない。

 数ある理由があるが、ミオも思う通り、それはミーティアの家族の事だ。

 ダンドルフ・クロスヴァーデン……今やこの国の大臣となったミーティアの父親だ。

 豊富な資金で騎士団を買い、おそらくそれは私兵にもなっている。

 さらには貴族の称号も与えられ、盤石だ。


「……よっ……と」


 凍てつく冷気を魔力で抑え、ミーティアを背負い自室へ運ぶ。


(こうなれば……わたしも、エルフィンの名を……)


 ジルリーネには一つ、ミーティアやミオの問題を解決出来る心当たりがあった。

 ジルリーネ・エレリア・リル・エルフィン……本名である。


「くっ……母上に頼るのかっ!今まで全て遠回しに連絡を取っていたわたしが!」


 言えば手薬煉てぐすねを引いて待ち構えるであろう、エルフの女王。

 言ってしまえば、かの女王は娘が大好きである。

 遠回しの連絡によるちょっとしたお願いも、有り得ない無茶な頼みも、オールオッケーで許諾きょだくする母親なのだ。


「……あー!バカバカ!くぅ……ミオやお嬢様を母上に会わせる?考えただけでも……そ、それだけで身の毛もよだつぅぅぅぅ!!」


 ブンブンとかぶりを振るう。

 ポニーテールがミーティアに何度も当たり、その度にボフンッ、ボフンッ!と冷気が舞った。髪が凍っている。


「うぅ……ジルリーネ……辛いぃ……」


「――はっ!!し、しまっ……お嬢様ぁぁぁ!」


 意識を取り戻したかと思ったミーティアは、再び気を失ったのだった。

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