7-4【動けるって素晴らしい4】



◇動けるって素晴らしい4◇


 急造した小屋でも、わざわざ全員分の部屋を割り当てて作ったんだ。

 男は俺だけだし、当然配慮が必要だ。

 ハーレム?おいこら、そこまでの余裕、今は無いんだが!?

 それに、ミーティアを選んでおいてそんな考え……悪いだろうが。


「ふぅ……」


 木の造りのベッドに腰掛けて、俺は一息ついた。

 天井てんじょうを見上げると、粗目あらめの木造が目立つ。


「……雑かよ」


 【無限むげん】の性能はお墨付きだ。

 それなのに、ここまで粗が目立つほど……魔力が上手く発生させられない。


「なぁウィズ、お前がサポートしてくれて……これなのか?」


 疑っているわけではないが、もう少しなんとかならないものだろうか。

 この怪我をして三ヶ月。動けるようになったのはいいが、この窮屈感はしんどい。


『――【破壊はかい】の影響は、魔力を流し練り上げる為の回路を乱しています。魔力の循環じゅんかんが出来にくくなり、発動までのタイムラグが異常に長くなっているのです』


「あれで?」


 【破壊はかい】は、全てのことわりを無視して、圧倒的な効力の威力を発揮する能力だ。

 昨年の春に、依頼サポートで一度発動した時は、【破壊はかい】でえぐられた地面は、【無限むげん】ですら戻せなかった。

 ウィズによると、物体を構成するデータ自体が破壊されて、二度と元には戻らないのだとか。


『あの黒い球体が直撃していれば……今頃ご主人様の両腕は消滅しています』


「……」


 何度説明されてもゾッとする。


 吸い込まれる形で、俺はスモールブラックホールによるダメージを受けた。

 爪が剝がれ、皮膚が裂け、筋肉が壊されたんだ。

 自分が発生させた攻撃とは言え、傷が元に戻らないってのはキツイ。

 しかも能力が上手く使えない……これが一番デカい。


 食事や日常生活すら、俺はまるで介護されているようだ。

 ミーティアやクラウ姉さんをはじめ、ジルさんにイリアも……感謝しかない。

 ましてやミーティアは、自分の足の事だってあるのに。


「ウィズ。ティアの【オリジン・オーブ】の適合率はどうなってんだ?」


『三十パーセントと言った所です。宝珠は完全にミーティア・クロスヴァーデンの肉体の一部となり、後は身体に馴染なじむのを待つだけです』


 それが、三ヶ月経っての……俺とミーティアの現在だ。


「オーブが馴染なじめば……気を失う事もないか?」


『――おそらく』


 ミーティアは、何度も何度も意識を失っている。

 その事は俺やクラウ姉さんには隠しているが、リハビリの時点でそうとうの思いだったはずだ。

 先程のように、普通に接しているだけでも、ミーティアからすれば全力全開の行動なんだ。


「おそらくって……」


 俺はウィズのその言葉に項垂うなだれつつも、ベッドに横になった。


 本当ならば、ミーティアにはまだまだリハビリが必要なはずだ。

 それでなくても、父親――ダンドルフ・クロスヴァーデン大臣が探していると言う事だし、【ステラダ】には居られなかったと言う理由があっても、な。


 そんなことを考えながら、俺は眠っていた。

 疲れが全然取れない。魔力が回復しないし傷も治らない……どうすればいいんだろうな、これから。

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