7-6【動けるって素晴らしい6】



◇動けるって素晴らしい6◇


 ミオたちが小屋に戻った頃、そんな時間と同じ時。

 外では二人の少女が狩りをしていた。


「イリアっ!追い込んだ……トドメ頼むわよっ!!」


「――はい!お任せくださいっ!!……はぁぁぁぁっ!【サークル】!」


 上空には弱々しい光線が舞い、するどい短剣が舞う。

 ザシュッッ――!!と、短剣は動物……【剣角牛】の胴を切り裂いた。


 ブモォォォォ――!!ドッスーーーーーン……


「や、やりましたぁぁぁぁぁ!見てくださいクラウ!私がやりましたよっ!?」


 ピョンピョンと跳ねながら、ハーフエルフの少女、キルネイリア・ヴィタールが喜ぶ。しかしそれを見るもう一人の少女は素っ気なく。


「はいはい。よく頑張りました……おつかれちゃんっ……と!」


 パシュン――と、光の剣……【クラウソラス】を消し去る。

 剣の形状はほぼナイフ……以前のような長剣サイズまで伸ばしてはいなかった。


「どーしてですかクラウ!もっと褒めてくださいっ、頑張ったんですからぁぁ!」


 初めての獲物を打ち取った興奮で、イリアの顔は紅葉のように赤い。

 鼻息荒く、背の低いクラウに抱きついた。


「――あぁーもう!鬱陶うっとうしいわねっ!は・な・れ・な・さい!」


 イリアの顔を押しのけるクラウ。


「ひ、ひどいですっ!こんなに頑張ったのにぃ!」


「だぁぁ!もう!!分かったわよ、分かったからぁぁ!」


 強引に、ガシガシとイリアの頭を撫でるクラウ。

 なげやりである。しかも適当である。

 それなのに、イリアはとても嬉しそうに。


「えへへ……はい!ありがとうございますっ!!」


「まったく、子供なんだから。ほら、牛を解体して持って行くわよ。ここからだと意外と遠いし、荷台は?馬は?」


「……はぃ」


 「なんでテンション落ちてんのよ……」と、クラウはジト目でイリアを見る。

 牛はクラウが見事に解剖……いや解体して、部位ごとに分けた。

 二人でボロい荷台まで運び、ジルリーネの愛馬……ファルで荷台をいて小屋に戻る。


「……あぁ……野菜食べたい……」


「お肉食べませんもんね……クラウは」


 いくら上質な牛を狩れても、クラウは肉を滅多に口にしない。

 したとしても吐く、全部吐く。

 だから、ガッツリとした肉は未だに食べられない。食べたくない。


「吐いてもいいなら食べるわよ。でも、あんたの目の前で吐くわよ?」


「――い、いえ……ご遠慮します」


 その昔、手入れもされていない猪肉を食べさせられて、リバースした思い出がよみがえる。

 肉が超貴重なのは理解できる。異世界であることをかんがみれば、上手い血抜きや綺麗な解体が出来ていないのも納得だ。


 自分とミオならば、知識だけならある。

 料理人の腕がある訳ではないが、日本で美味しい料理は食べていたのだ。

 再現もお手の物……ではないのが悲しい所。


「そういえば今日は……ミオをお風呂に入れる番だけど――」


「あ!はいはいっ!じゃあ今度は私が――」


 クラウの言葉の途中でイリアは手を挙げる。しかし。


「駄目に決まってんでしょ、ミーティアにもジルにもさせてないんだから」


 ギロリと睨む、姉の特権。


「……うぅ、すみませんっ」

(こ、こわい……じゃあなんで言ったんですかぁ)


 背筋の凍る思いをするイリア。

 まるで見せつけられているような気分を抱えつつも、この状況が少し楽しかった。

 自分が少しでも役に立てるから、頼りにしてもらえるから。

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