【王国の変貌期】編

7-1【動けるって素晴らしい1】



◇動けるって素晴らしい1◇


 俺たちが今いるここは、【ステラダ】から南東に少し離れた場所だ。

 そのまま西に進めば【豊穣の村アイズレーン】まで直ぐと言うほどに南下した、南の国【テスラアルモニア公国】と【リードンセルク王国】の国境付近。

 つまりは、上記の二カ国と【サディオーラス帝国】。三国の流通が可能な立地のいい場所だな。


 今、俺たちはここに拠点きょてんを造っている。

 国境とは言え、特に税関も無ければ門番もいない……管理されていない場所だからな。ここだって山のど真ん中だ、正直言って環境は良くない。


 そんな山中も季節がもう直ぐ春となり、本格的な雪けも間近だろう。

 【ステラダ】の街はどうだろうか……何せ、もうここに来て一ヶ月・・・だからな。


 え?俺?


 俺の名前はミオ・スクルーズ……【王立冒険者学校・クルセイダー】の一年生。なんだけど、正直言って進級は出来るかどうか分からない。

 これは俺だけの問題ではなく、昨年起こった事件が起因する。


 【リードンセルク王国】……近々女王国へと名を変えるそんな国にも、転換期がおとずれた。

 突然だった王の逝去せいきょ、それにショックを受けた王妃は隠居し、後を継いだのは一人娘のシャーロット王女だ。

 その王女が真っ先に行ったのが――資金集めと兵の補充だった。


 その被害は【リードンセルク王国】全土、徴兵ちょうへいは異常な数だけされた。

 それは俺たちがいた街、【ステラダ】でも同様でな、徴兵ちょうへいを行うのは、【リューズ騎士団】と言う自由をうたった騎士団の集団。

 今、俺の目の前で作業をしているジルリーネ・ランドグリーズってエルフのお姉さんが、前まで所属していた組織だ。


 なんでお姉さんかって?だっておばあちゃんだなんて言えないだろ。

 怒られたくないし。


 やべ……ほら睨まれた。


 は、話を戻そう。ジルさんは、今回の騒動について何も知らなかった。

 あの時点でもうさっしはついていたが、ジルさんは【リューズ騎士団】から追い出される形になっていたそうだ。

 ジルさんは、俺らが入院している間に個人的に行動をしてくれて、色々と探ってくれたんだが、【リューズ騎士団】の指揮権は、ダンドルフ・クロスヴァーデンが買い取ったと言うのだ。


 そして今や、そのダンドルフ・クロスヴァーデン……ミーティアの父親は貴族と成り、大臣の肩書まで手にしている。

 大商人としての豊富な資金、【リューズ騎士団】の戦力を武器に、更には権力という力までを自分の物にしたんだ。


「……よっと!【無限むげん】……っ!」


 俺は地面を操作して、凸凹で形の悪い道を整備している。

 一ヶ月もここにいてまだ道の整備かよ……って思うだろ?


 俺、両腕の回復がまだなんだよ……実は。


「おい平気か、ミオ……?」


 ジルさんが言う。


「あ、はい……ちょっと痛みますけど」

(とか言いつつ、めちゃくちゃ痛えけど)


 俺の両腕には、未だに包帯が巻かれている。

 【破壊はかい】の影響で負った傷の自然治癒力へのダメージは、尋常ではなかったのだ。

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