エピローグ6-5【慟哭の空に開闢する力3】



慟哭どうこくの空に開闢かいびゃくする力3◇


 【ステラダ】の街に響いた慟哭どうこくから数日が過ぎた。

 あの後、直ぐにミーティアを病院に連れて行こうとした俺たちだったが、案の定……俺とクラウ姉さんがぶっ倒れた。

 どちらも魔力切れ、俺に至っては寿命を削った……はずだ。


 俺とクラウ姉さん、そしてミーティアは、揃って入院だよ。

 ジルさんとイリアがいなかったら、どうなっていた事か。マジで感謝だ。


 けれど、ミーティアは無事だったんだ……助かったんだよ、あの重傷から。

 先生が言うには、ミーティアが一番軽症だってさ……そりゃあそうだろうな、なんせ治ってんだからさ。


 ミーティアも、身体的には普通と変わらないと言っていた。

 自分が片足を失ったことも、死にそうになったことも覚えていて、泣きながら俺に笑顔を見せてくれた――「ありがとう」って。


 そして、あの日……【ステラダ】で行われた強制徴兵ちょうへいだが……どうやら【リードンセルク王国】全土でも、同じ徴兵ちょうへいを行っていたのだと聞いた。

 【ステラダ】だけじゃなく、【リードンセルク王国】の王都以外の全ての町や村で、何万人もの人手が連れ去られたのだと言う。


 俺は思った……【リードンセルク王国】は、変わると。

 いい方じゃない、悪い意味で。

 トップが代わって、真っ先に行われたのが……資金集めと徴兵ちょうへいだ。

 戦争の前準備……そうとしか考えられないだろ?


 それに……【ステラダ】で戦った騎士たちだ。

 あいつらは、経営体制が代わった【リューズ騎士団】の人員らしい。

 【リューズ騎士団】は【ギルド】を運営しているし、根回しが初めからされていたんだろうな。

 あの後、【ギルド】からも逃げ出す職員が結構いたらしく、全部が全部王国の裏側を知っていた訳ではなさそうで、そこだけは少し安心した。

 受付嬢のメイゼ・エーヴァッツさんとかな。


 でもって、俺たちが病院に運ばれる時、既に【ステラダ】からはあの大きな馬車は撤退していた。

 【ステラダ】からも、数百人の男性や女性冒険者を連れて行かれたらしい。

 少ない方だってさ、なにせ……冒険者学校からは連れて行かれなかったからだ。

 その功労者は……ラクサーヌ・コンラッドさん。

 魔人に【超越ちょうえつ】した……クラウ姉さんの相棒だ。


 学校側は、王国が徴兵ちょうへいを行うことを知らなかったらしい。

 侵入してきた騎士たちに抵抗したラクサーヌさんが、見事なまでに追い返したんだとさ。あっ……追い返してなかった、っちまってたらしい。

 という事で、学生の被害は無し……俺ら以外は。


 そして一番の被害……というか、今回の事件で影響を受けたのが……ミーティアだ。

 その理由は……これから俺が会いに行って話すよ。





「よっ」


「あ……ミオ」


 違う病室に、俺はお邪魔した。

 お金が無いので大部屋です……クラウ姉さんは……


「クラウなら検査よ?」


「あー、そっか」


 俺は椅子に座る。


「どうかな、足の感覚は……?」


「あー……ね。こんな感じです」


 病院着をめくると、白く綺麗な肌が。

 こんな感じ……見た感じでは、女の子のか細い足だ、うん。


「触るぞ?」


「は、はい」


 緊張しないで……移るから。

 そう思いながらも、俺はミーティアの右足に触れる。


 ひんやりと……いや、ガチで冷たい。

 まるで氷のようだった。


「普通、なんだよな?」


「ええ……体温は、全くないけど」


 雪女の肌はこんな感じだろうかと、思ってしまう。

 そう冗談めかせるのは、ミーティアが普通でいてくれるからだ。


「お湯は?」


「大丈夫よ、入浴も出来るわ」


「歩くのは?」


「平気。普通に歩ける……あーでも。前より動ける気がするかも」


(平気……か、噓が下手だね、ティア)


 平気な訳がない。

 クラウ姉さんにもジルさんにも、俺はもう聞いているんだから。


 ミーティアの身体能力や魔力は、有り得ないほどに上昇しているらしいのだ。

 それこそ、まるで【超越ちょうえつ】したかのようにな。

 でも、ミーティアは【超越ちょうえつ】した訳じゃない。

 身体は普通の人間族……むしろ一般人と同等だ。


 だが、今のミーティアは明らかに違う……その計測できない力は、【オリジン・オーブ】の影響だろうと、ウィズが言っていた。だろ??


『――その通りです、この世界の一般的な言葉で言うのなら……チートですね。おそらくですが、世界に一人……開闢者オープナーです』


 世界にただ一人の、始まりの力を持った人間……か。

 そんな存在になってしまったミーティアが、平気な訳が無いんだ。


「うーん。あ、それって、ミオの前世のお話?」


「ああ……まぁね――って……え?」


 今の問いは……俺にじゃないよな、って事はウィズさんや……お前は言葉を音に出来たのかい?


『いえ……ウィズはご主人様だけに仰っていますが』


「うふふ……本当にアイズさんの声に似てるのね、ウィズさんって」


「――ティ、ティ、ティ……ティア!?聞こえんの!?ウィズの声が!」


 ここ数日で一番のおどろきだ。


「ええ。この足になってからね」


 笑顔で言うけどさ……困惑しないの?

 それに、サラッと前世とか言っちゃってるけどさ、その……いいのか?


「ティア……その、俺はさ……」


「いいの。ミオはミオだから」


 病室のベッドに座りながら、ミーティアは笑顔で言う。


「気にならないのか?俺がさ、その……どんな人間で、どんな姿だったとか」


 自分で言ってて、刺さるよな。

 これを言ってる自分が、一番の気にしいなんだから。


「――すっごく気になる!!」


「え、ええ……そうなんだ」


 ちょっと焦った。

 けど、その瞳は綺麗にかがやいていて、好奇心なんだと気付いた。

 知りたいと思ってくれるんだ……こんな俺の、過去を。


「うん……だって、私の知らないミオの事、もっと知りたいわ……もっと深く知って、隣に居たい……ずっと、ずーっと」


 顔を赤くして、毛布をつかむミーティア。

 ああ……やばいわ……もうダメかもしれない。


 我慢の限界だ。


「私の知らない事、もっと教えて?私は……全部受け入れる、だって、ミオの歴史を――」


 言葉を紡ぐミーティアの口を塞いだのは……俺の唇だった。

 冬の外気はこんなにも冷えているのに、燃えそうに暑いこの心は――恋なんだろうな。


 衝動的に、ミーティアを俺のものにしたいと……思ってしまったんだ。


 触れた唇を……ゆっくりと離し、俺はミーティアに聞く。


「――嫌、だったか?」


「……」


 うつむきながら、首を何度もフルフルと横に振るミーティア。

 真っ赤だ……多分、俺も。


 こうして……俺とミーティアは同じ道を歩み出すんだ、共に。

 困難だろうと、果てない道を共に行くと……決めたんだ。




~ 第6章【冒険者学生の俺。十五歳】後編・エピソードEND~


 6章終了です。ありがとうございました。

 残された問題も多くある中で、ミオは一人の女性としてミーティアを選びました。


 各々の問題は、どんどん絡んでいきます。

 『アイズやアイシア、リアのEYE’Sアイズ関係』

 『ミーティアの夢と、家族の問題』

 『西の帝国、ユキナリたち転生者部隊の話』

 『シャーロット王女を主とする、王国の暴挙』

 最大には『アイシアはこのまま終わるのか……!』です。


 まだまだ増えて行きそうな問題も残ってますし、ドンドン書ければと思います。

 これで、第一部の終わりでしょうかね……ミオの転生譚は、ここから大きく広がっていく予定です。『譚』というからには、そうしないと。


 次話はサイドストーリーと、4~6章までのキャラクター紹介です。

 サイドストーリーは少し明るいのを書きたいかなぁ。

 それでは、今後もどうぞよろしくお願いいたします!!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る