エピローグ6-4【慟哭の空に開闢する力2】



慟哭どうこくの空に開闢かいびゃくする力2◇


 【念動ねんどう】で宙に浮く青色の【オリジン・オーブ】。

 蒼氷そうひょうの力を持つらしいその宝珠の魔力の消費量は、普通の魔法道具と比較出来る量ではなかった。


「ぐうぅぅぅぅぅぅ……っ!!」


 俺の最大魔力は天上人に【超越ちょうえつ】したことで上昇している。

 もともと天族は身体能力が高めの種族だが、魔力だってそこそこになってるんだぞ!それなのに……なんだよこの吸い取られるような感覚は!!


『急いでください。間に合いません』


「へ、へへ……きつい事言うぜ、今どっち!ウィズだろ!」


 大粒の汗を搔きながら、ぼたぼたと地面を濡らす。

 冗談っぽく言ってるが、そうでも言わないと気を失いそうだったんだ。

 ここで気を失って見ろ……俺はもう起きないからな。

 その時点で、俺の物語はバッドエンドだ。


「ミオ……しっかり!」

「ミオっ!頼む、お嬢様を!」

「くぅ……ミオ……私も、頑張ります!」


 分かってるって……大丈夫、絶対に。


「任せろ……ティア!今、直ぐに治してやるから!話もしないままお別れだなんて、俺は認めないぞ!これから頑張るんだろ!世界一の商会を作るんだろ!!こんな路頭で死ぬなんて……絶対に許さないからなぁ!!俺の傍にいるんだろ!一緒に未来を切り開くんだろ!……くっ……ウィズ!まだかっ!」


 声を掛けつつ、魔力を注ぎ続ける。

 もう、【無限むげん】を何度使える量の魔力を使っただろうか……いつ魔力切れを起こしてもおかしくはない気がする。

 だが、諦めはしない!


『――八十パーセント……』


 はち……じゅう……あと二十!!


「ぅおおお……」


 口の中が鉄の味をしている。

 これはあれだ……鼻血だ。

 もう魔力切れ、起こしてるんだろうな……ここからは、寿命をくれてやる!!


「……」


『――これ以上は……もう』


 言うな!!それを言ったら……許さないぞ、ウィズ!!

 魔力が足りない、そんな事は俺が一番分かってんだ!


「こんなことで……物語が終わってたまるかよぉぉ!ティア!」


 俺だけの物語じゃない……お前が隣に居てこその、そんな俺の物語なんだ。


 ――そうだろ?ティア。


『――これは!まさか……!――いいのよ。気にしないわ……ですが!このままでは!――しっかりしなさいミオ!これ以上あたしの計算を狂わせないで!』


 はは……滅茶苦茶だ。もう身勝手な事言うじゃん、アイズだろ絶対。

 ウィズとアイズで交互に話すのはやめてくれよ。


 歯を食いしばり、限界を超えた魔力を振り絞る。

 体力でも寿命でもいい、魔力に変換してくれ!


「――ティアァァァァァァ!!――がっ……っ!」


「「ミオっ!」」

「オ、オーブが……」


 パシュン――と、俺の魔力が切れた。

 俺は膝から崩れ、クラウ姉さんとジルさんが声を上げた。

 そしてイリアのその言葉に、俺は。


「……オーブ……は」


 かすみ赤く滲む瞳で、【オリジン・オーブ】を見る。

 すると……オーブは発光して回転を始めていた。

 もう、【念動ねんどう】は切れているように見えるが……宙に浮いたまま魔力をはっして、白い煙……冷気を発生させていた。


「……成功、なのか??」


 確かな事は分からない。

 だけど……【オリジン・オーブ】の発動は叶った。

 強制的に発動された【神器アーティファクト】……EYE’Sアイズの為に用意されていたらしいその宝珠は――崩れ始めた。


「え……」

「噓でしょっ……」

「そ、そんな……」


 イリア、クラウ姉さん、ジルさんの順に……崩壊していく【オリジン・オーブ】を悲しげに見る。その表情は……絶望。


 だけど……俺は。


「――違う。崩れたんじゃない……これは、修復だ!!」


 宝珠は崩れていったのではなく、その力を発動して……ミーティアの身体の一部に変換され始めたんだ。


「……は、はは……すげぇ……これが奇跡って言うんだ……神の、力」


『――その通りよ。でもいいことミオ……ミーティアは、その身に【神器アーティファクト】を宿した。EYE’Sアイズ一人分の力をね』


「――ティアも、EYE’Sアイズになるのか……?」


「えっ」


 クラウ姉さんがおどろく。

 覚悟はしていた……【オリジン・オーブ】がEYE’Sアイズの為の道具なら、そうかもって。

 しかし、返答は。


『――答えはいいえ。ミーティアはEYE’Sアイズではないわ……ただ、一人分の【オリジン・オーブ】が無くなるという事は、世界のどこかにいるEYE’Sアイズが一人――死ぬという事よ。言わなかったけど……これがアイシアに用意されたものだったら……』


 そう言う……事か。

 俺は、途轍とてつもない賭けをしてたんだな……


「アイシアは……?」


『……平気よ』


 ホッとした……二重の意味で。

 下手をすれば、俺はどちらも失っていたんだ……ミーティアも、アイシアも。


「……ん……ミ……オ……」


「――!!」

「「ミーティア!!」」

「お嬢様っ!!」


 かすかに聞こえたその声は、俺を呼んだ。

 か細い声で、俺を呼んだんだ。


 その瞬間……俺の涙腺は決壊した。

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