6-138【蛮行の王国19】

※多少過激な描写があります。

――――――――――――――――――――



◇蛮行の王国19◇


「――クラウっ!立てるわね!?走るわっ」


 私は膝を着くクラウに声を掛ける。

 しかしクラウは。


「――ば、馬鹿!私のことは放っておきなさいっ!狙われてるのはアンタなのよ!?」


 駆け付けた私とイリアに、クラウは嚙みついた。

 ごもっともなのだろう……でも、狙いはクラウでもあるんだと、私は思ったから。


「嫌よっ!みんなで――逃げるのっ」


「――二人で逃げなさい!」


「嫌よ!それにクラウだって、そんなに動きにくそうにしてっ……魔力だって弱ってるし、動きも鈍い!!そうよねイリア!」


 矢継ぎ早に口を紡ぐ私に、イリアも同意。


「は、はい!みんなで一緒に逃げましょうっ!」


「あんたたち……馬鹿っ」


 私とイリアはクラウの肩に頭を回して、連れて行く。

 ちらりと騎士二人を見ると、馬鹿なものを見るような視線で私たちを見ていた。

 勝手に思えばいい、逃げても無駄だと……結界があるからどこへ逃げても同じだと、そう思っていればいいのよ!


「あーあ、いいんすか?美少女三人……逃走ですよ?」


「構わん。俺の【封界シェル】の中では……どこへ行っても同じだ」


 聞き取れなかったが、どうせ無駄だって言ってる。

 だったら最大限……逃げ回って見せる……この先に、きっと彼が……いるから!




 脱力する人間を運ぶのは、例えそれが小柄な女の子でも難易度が高い。

 ましてや女子二人で、散々逃げようとした後なら……尚更だ。


 しかも……身体が異常に重たいし、歩くだけでも魔力が……減っている気がする。


 それでも、私はあきらめない!


「ミーティア、イリアも……私を置いていきなさい。私はまだ、戦える」


「バカ言わないでっ!治癒の魔法を使うだなんて、滅多にない事じゃない!それに……魔力がもうないでしょ!!」


「――ば、ばか……」


 何気にショックだったのかも知れないけれど、今は許して。

 それに、私も知ってる……クラウが治癒の魔法を使ったのは、ジルリーネとの訓練で負けた時だ。


「そうです。みんなで一緒なら……怖くないですっ……だから逃げましょう、クラウ」


「そうよ、イリアの言う通り!まだある……まだ、ミオが――」


「――っ!!――二人共っ!!」


 私が希望を口にしようとした直後……足元に――大きな火球が着弾し、私たち三人は吹き飛ばされた。


 ――ドォォォォォォオ――ン……!!


「――きゃああああ!!」

「あぐっ……」

「……あっ……かはっ……」


 三人バラバラに吹き飛び、私は地面に転がり……泥にまみれた。

 クラウは商店の壁に激突し、ずるりと力を無くした。

 イリアは……直前に私とクラウをかばったんだ、一番大きく吹き飛ばされてはずんで、何度も地面に強打して……動かない。


「……イ、リア……」


「……」


「……」


 クラウも動けない……激突した壁に、真っ赤な血がにじんでいた。


「……――っ」


 私は息をむ……私の、私のせいで……私が、素直に投降していれば!


「あーあ、やっちゃったかなー……ザルヴィネさーん。いいんすか、次期大臣の娘と、貴重な回復持ちの転生者っすよ?威力間違えたっしょ?」


「……すまん、魔法は苦手でな」


 追い……つかれた。

 あっと言う間に、何も出来ないまま……


 私は立ち上がろうと力を籠めたが……脚に激痛が走った。


「うっ――つっ……あぁ……!」


 遅れてきた痛みに、私はその痛みの在処ありかを見る。


「――え」


 ひしゃげていた……右足が。

 ぐしゃりと折れ曲がり、飛び出ているのは骨だろう。

 そこから流れる流血に地面と衣服を真っ赤に染めて……私の足が、肉塊のようになっていた。


「あ、あ……ぅあぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああっ!!」

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