6-137【蛮行の王国18】



◇蛮行の王国18◇


 【紫電しでん】でみんなと合流をしようと、【極光きょっこう】の足場で宙を飛び跳ねていた俺だったが。

 不意に……ウィズが。


『――前方注意』


 は???


 ――ドンッッ!!


「――んがっ!!」


 急激に襲って来た痛みは、顔面に。

 何かにぶつかった!?何も見えなかったぞ!


「……いっでぇ!!」


「なっ……どうしたミオ!――は!これは……結界か!」


 見えない何かにぶつかった矢先、ジルさんが言う。

 お、おいウィズ!感知は!!いきなり言うなよなっ!


『――寸前まで反応ありませんでした。空間認知されない特殊なもののようです』


「結界!?……それってまさか!」


 ジルさんに返事しているように、俺はウィズに転生者のチート能力かと問う。


『はい。おそらくは……何重にも複雑なコードを重ねられた、非常に練度の高い能力です』


 落下しながら俺は空中で姿勢を正し、着地。

 バンッ――と、足がしびれるほどの勢いだった。


「平気かミオ……しかし、この濃密な魔力は……まさか、【リューズ騎士団】の誰かが?」


 お姫様抱っこのジルさんを降ろし、二人でその反応の壁を触る。


 【リューズ騎士団】の中に、この結界を張りやがった転生者がいるって事か。


「……これは魔法……ですかね」


「そうだろうな」


 ジルさんにはこう誤魔化ごまかせるが、中はどうなってる。

 ウィズ、範囲は?


『商店区画一帯です。外側からは完全に見えない壁ですが……中はおそらく、魔力や身体能力の低下も考えられます』


「やべぇって……クラウ姉さん、平気だよな?」


 ウィズが言う通りなら、つまりはクラウ姉さんやミーティアたちがいるこの空間全域を、遮断しゃだんされたって事だな。

 くそっ……騎士の中に転生者がいるってのが確定だ。


 しかもクラウ姉さんが戦ってる率……激上がりじゃねぇか!


「どうするミオ、これではお嬢様たちと合流が……」


 魔法関連に強いジルさんならどうにか出来るかとも思ったけど、そういうって事は無理なんだな。まぁチート能力の可能性もあるし――なら、俺がやるしかない……俺にしか出来ん!


「離れててください、ジルさん……少々強引にぶっ壊します!【カラドボルグ】!【ミストルティン】!」


「――な!おいミオっ」


 制止なんてしないでくれよジルさん!

 ミーティアとイリア、クラウ姉さんが待ってるんだからな!!


『複雑怪奇な攻撃方法を数十回……魔力の波形の打ち込み。これを何度も行います……――もしくは』


 まるで電子侵入だな。

 でも、御託ごたくはいいさ……まずは力尽くだ!!


 両手にチート武器をたずさえて、俺は結界を壊しに入るのだった。





 土埃つちぼこりが舞う……クラウが飛んで、そして急激に落ちたからだった。


「こ、この……っ!【貫線光レイ】!」


 光の剣から光線が発射され、それはコーサルという男性騎士に直撃する。しかし。


「――ぐはああっ……ははは、痛い痛い」


 笑顔で言う騎士。

 クラウは苛立いらだちながら。


「そうは見えないのよ!このチャラ男!!」


「うへぇ……キッツ、何度も何度も俺にビーム撃ってくるくせにさー」


 ビーム……また分からない言葉だわ。

 だけどそれを聞くこともできない状況、転生者・・・……それは、ユキナリ・フドウと言う少年との話の時に、一度耳にした言葉。


 彼は自分を、ニホンジン……と、そう言った。

 どこか遠くの国なんだと、誰もが気に留めなかったが。


「いいもんよなぁ!日本人同士の会話は、なつかしくてさぁ!」


「どこがよ!最悪だわっ……昔を思い出す!!」


 昔って、なに?

 クラウの言う昔……私の知らない昔。

 十八の女の子の、昔?


「いやっほーー!!」


「黙れ軽薄男っ!!その軽口……引き裂いてやる!」


「こっわ!!それになんだよその決めつけ!あ!!もしかして俺たち、前世で会ってる!?」


 前世――生まれる前の、別の人生。


「な訳ないでしょっ!あんたみたいな男……みんな同じでしょ!!」


 ブンッ――と、クラウは光の剣を振るう。

 剣はコーサルと言う騎士の肩から胴を、袈裟斬けさぎりした……しかし。


「――いてぇぇぇぇ!マジでなんだよその剣!俺じゃなきゃ死んでますけど!?」


「じゃあ寝てなさいよ……!」


 クラウ、かなり苛立いらだってる。

 それに、動きが段々鈍くなっている気がする。

 あのザルヴィネって騎士も……何度もコーサルって騎士を援護しているし。


「――炸裂せよ、赤線の……【火球ファイヤーボール】!」


 言ったそばから。

 魔法だ……下級の炎魔法。

 だけど、早い。


「……くっ!」


 クラウは直ぐに反転して、光線を放った。

 いつものように【貫線光レイ】と名を叫ばず、あせったように撃つ。


 れ違う火球と光線。


「――そん――!?」


 クラウも気付いた……れ違ったのではなく、火球が動いたんだ。


 ボォッン!!


「クラウ!」

「クラウっ」


 防いだ……わよね。大丈夫よね、クラウっ!


「……あ、ぅ……あっつ……」


 バサリと翼が地に落ちた。

 そして……消えた。

 魔力が霧散むさんして、クラウが膝を着いた。


 直撃は防げたけど、熱と炎による炎症……でも、クラウには。


「――【治癒光ヒール】っ……!」


「「!!」」


 そう、クラウの回復魔法だ……滅多に見る事が出来ない、それこそ幻のような魔法。

 だけど、騎士二人の様子がおかしい。うなずき合い、視線で合図した……?


 ザルヴィネと言う人の視線はクラウ。

 コーサルと言う人の視線は……私だった。


「くっ……イリア!クラウをお願いっ」


「で、ですが……クラウでもあんなに……」


 あの騎士たちは決めに来ている……一瞬で理解した。

 だから私は動く、無理だと分かっていても……無謀でも。

 折れかけた思いを、再び起き上がらせて。こんな不条理を……消し去る為に。


「――走って!クラウを連れて逃げるのっ!」


 駄目だと分かっていても、無駄だと決めつけられても。

 そんな自由を求める自分の生き様を、ほこれるように。 


 足搔あがいて見せる――!!

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