6-132【蛮行の王国13】



◇蛮行の王国13◇


 なんて顔をしているのよ。

 今にも泣きそうな、そんな子供のような顔をして……それじゃあ、ミオの隣に立つだなんて出来ないわよ?


 だから……手を貸してあげる。

 目的を達成した私には、もう冒険者になる必要は無くなった。

 いつどこで暴れようが、もうどこにも関係ない。

 もし圧力かなんかで誰かに迷惑が掛かるのなら、最悪、バレなきゃいいんだから。


 せめて図々しく、生きればいいのよ。


 それが出来る力……圧倒的な力をって、私はそれを成す事が出来るんだから。


「その手を離せと言ったわ。私の友人に……触れるな」


「あぁん……?何だこのチビ。ここは仮装大会じゃねぇんだぞ?」


「いたっ……」


 ミーティアの腕を持ち上げるように、自分の腕を上げる男。


「離せと言ったわよ」


 【クラウソラス】を魔法剣モードで既に展開していた私は、光の切っ先を男に向ける。


 指揮をれそうな騎士が二人……一人は大柄で、冷静にものを見れる感じはある、もう一人は口だけの小物かな。


「まてコーサル、とりあえず離すんだ」


「え、なんで!」


「いいから離せ。状況が変わった」


 その言葉に、男はミーティアの手を離す。

 ミーティアはイリアの所に急ぐが、私を気にしているわね。


「――その翼……まさか天使か?」


 大柄な男は一歩前に踏み出し、私に向けて言う。


「ちょ、ザルヴィネさーん?こんなちゃちい国に、天使が降臨する訳ないっしょ?なーに言ってんすか」


 【リードンセルク王国】はある程度の広さを持っているはずだけれど、このチャラそうな男はどこから来たのよ。

 【サディオーラス帝国】と比べたのなら、気持ちは分かるけれど。


「黙っていろ。どうなんだ、そこの少女……君は、天使か?」


 なるほど。この大柄な男は、芯が強い。

 このチャラい男に何を言われようとも、自分の考えは曲げないタイプか。

 それなら、乗ってみてもいい。


 私は一度ミーティアに視線を送り、互いにうなずき合う。

 冒険に出た時の合図ね。「隙を見て逃げろ」……そう言ったわ。


 そして男に返答する。


「そうだとしたら?この翼がそんなに珍しいかしら……」


 私はわざとらしく、【天使の翼エンジェル・ウイング】を羽ばたかせる。

 光を抑えれば、白い羽をきっちりとうかがう事が出来る。

 男もそれを確認して、翼自体は本物だと理解したはず。


「……」


「ザルヴィネさーん?このチビがもし天使だとしても、俺たちの任務は【ステラダ】から兵士をつのる事っすよ?それだけは変わんねぇからね」


「分かっている。だから……お前は任務に集中しろ」


「え?ちょちょ待ち!俺一人であの人数の男どもを連れてけって事?ジョーダンだろ?」


 そう言いながら、コーサルと呼ばれたチャラい騎士は剣を抜いた。

 ご丁寧に始めに持っていた杖を仕舞って。

 そして歩き……再度ミーティアの元へ向かおうとする、が。


 そうは……させるわけないでしょっ!


「――ふっ……!」


 私は駆け出した。

 【天使の翼エンジェル・ウイング】を振動させて、いつもよりも加速して。

 たった一歩の踏み出しで、私は男とミーティアの間に割って入る。


「――なっ!!はえ」


「チャラ男が遅いのよっ!!」


 ブゥン――


 おどろいて一歩後退する男に、私は【クラウソラス】を振るう。

 隙だらけのその胴を、光の剣が通過した。

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