6-131【蛮行の王国12】



◇蛮行の王国12◇


 私の答えは、もう決まった。

 ただ一人、私がこの騎士たちと交渉を出来る権利があるのなら……私にしか出来ないこの役目を、果たさなければ。

 そして少しでも多くの時間を稼いで、イリアがミオを呼ぶ事が出来れば、きっと――まだ活路はあるわ。


「いい心がけですが。そこのハーフエルフも来てもらいますよ……」


「「えっ」」


 ザルヴィネと呼ばれた隊長格の騎士は、イリアの剣を見ていた。

 観察するように、じっくりと。


 も、もしかして……ミオが完成させたその剣の真価に気付いた??

 それに、手甲ガントレットも見ている。


「どうしてです。貴方は先程、御父上が……と言いました。それはダンドルフ・クロスヴァーデンですよね。その通り……私はダンドルフ・クロスヴァーデンが娘、ミーティアです……父が何を言ったかは分かりませんが、ついて行きますのでこの子は――」


「ふむ。随分とそのハーフを気にかけるんだな……たかが武器防具ごときで、そこまでの価値はない。ただ単に……他に邪魔をされたくないだけさ」


「……」


 違う――この男は……私が誰かに助けを求めると、そう踏んでいるんだ。

 だからイリアも連れて行くと、そう言って。


 これ以上、私に何が出来るの……せめてイリアを逃がそうとしたのに、そんなことも出来ないなんて。


「……わ、私は」


「さあ、コーサル。お嬢様をお連れしろ……今後、新たな大臣閣下・・・・・・・の御令嬢となるのだ……丁重にな」


「へーい」


 今……なんて?

 新たな、大臣?御令嬢……?

 まさか、お父様が……【リードンセルク王国】の……大臣、に??


 ――ピキッ……


 その決定的な言葉は、いとも簡単に私の心にひびを入れた。

 私がどれだけの努力を重ねても、誰かとの信頼を築いても……お父様は、全てを上回って来る。私を――潰しに来る。

 その実感が、急激な寒気を帯びて襲って来たのだ。


「……あ……」


 ミオの言葉が、心が。


「……あぁ……」


 笑顔が、存在が……揺らぐ。

 どうにも出来ない、権力という大きな力に。


 唯一逆らえないと言っていたその力をお父様は、とうとう手にした。

 いくら強くても、頼もしくても……絶対に逆らう事が出来ない、権力という剣を。


「……」


 力が入らない。

 音が遠くなる……何も、考えられない。


「ミ、ミーティアっ!」


 イリアの声も、ずっと遠くに聞こえる。

 もう、ずっとずっと遠くから……遥か彼方から。


「さぁ、こちらっすよー」

(なぁんだよ、全然大したことない、ただのガキじゃん)


 項垂うなだれながら、私は騎士の言う通りに歩く。

 騎士の手が私に触れた……気がした。

 けれどももう、逆らっても無駄なら……


「――その手を離しなさい」


「!」


「あぁん?」


「誰だっ」


 その声は、この殺伐とした状況の中で……唯一私の耳に、心に沁みいった。

 まるで光のようにまぶしく、神々しい。

 暗めの金髪を後頭部でくくり、風も無くなびかせる……

 その背には、光りかがやく光翼。

 その手には、勇者の如き光の剣。


 小さな天使が……光の剣をかかげて、私たちの前に現れた。

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