6-127【蛮行の王国8】



◇蛮行の王国8◇


 マルクースは、ゼノの言葉にしたがって風の魔法道具だけを解除した。

 風は鳴りやんだが、重圧は解除されないまま……ジルリーネの身体は地面に着いたままだった。


「エルフは高く売れるんだろ?なら、売ればいい。脂っこいジジイどもが、言い値で買ってくれんだろ。精々かわいがってもらいなぁ!」


 獰猛どうもうに笑い、ジルリーネの未来を決めつけたゼノ。

 剣を振り上げるが……ジルリーネは無言だ。

 男二人には、あきらめたように見えた事だろう。


 しかし、その実態は。


「――おいおい、美人エルフのお姉さんにそれはないんじゃないかな?」


「「……誰だ!」」


 この場に、突如として聞こえた男の声。

 ゼノとマルクースは振り向き、警戒する。

 するとそこには。


「……さっきのガキじゃねぇか」


「おやおや、みずから戻って来たんですか?」


 先程……消えるようにいなくなった金髪の少年。

 その少年が、地面にバチバチと稲妻を走らせて立っていた。


「――大きな声で呼んでくれたんですね、ジルさん」


「遅いぞ、ミオ」


「はっはっはっ。すいませんマジで……」


 笑いながら、男二人を完全に無視して歩く。

 その先はジルリーネの所だが、そう簡単に行かせる訳はなく。


「待てやコラ……」


 ズイッ――と、ゼノが立ち塞がろうとした。

 しかし。


「……あ?消え……」


 金髪の少年……ミオの姿が一瞬で消え去った。

 先程と同じように。


「……これはおどろきました。ゼノくん……あっちです」


「はぁ?」


 マルクースの言葉にゼノは向く。

 そこは、ジルリーネの真隣。


「らしくないっすね、ジルさん。油断しました?」


「まぁそういうこともあるさ……よっと、すまないな」


 ジルリーネを立ち上がらせるミオ。


「てめぇっ!!」


「待ってくださいゼノくん……あの少年、いとも簡単に【墜堕ついだの腕輪】を解除しました、危険かもしれませんよ」


 【墜堕ついだの腕輪】は、重力を発生させる魔法の道具だ。

 ミオは初見だが、クラウがロッド・クレザースと戦った時に使っていた。

 しかし、【クレザースの血】で強化されたあの時とは圧倒的に威力は低かった。


「ちょっとばかり魔力を流したら解除されたよ。ジルさんこのひとだって、本気出せばこんなもん通用しないって……そんな事も把握はあくできないのかよ、今頃の騎士さんは」


 やれやれ系主人公のように、ミオは二人をあおる。


「このガキィ……!」


随分ずいぶんと自信過剰な少年ですね……なら、これは――!」


 マルクースはまた、ふところから何かを取り出そうとした。

 しかし、その表情は優れていない。


「おい!どうしたマルクース!」


「ふ、服が……固まって!う、動けません!!」


 まるで静止画のように、マルクースの来ている白の軍服は固まっていた。

 服の皺も伸びない、糸の一本も動かせない状況だった。


「マルクース!おめぇふざけてんじゃ――な……い、ぞ」


 そう言い、ゼノがマルクースを一発殴ってやろうと動いた瞬間、ゼノもまた、動作を失った。


「あれぇ?どうしたんすかお二人さん……とか言ってるうちに、行きますかジルさん」


「あ、ああ。しかし……いいのかあれで」


「いいんすよ。強度的には、二~三日は動けないと思うし」


「「二~三日!?」」


 何をされたかも分からないまま、放置されるらしい二人。

 幸いここは路上であり、いずれ【リューズ騎士団】の仲間が来るだろうが。

 それでも誰かに手伝って貰って動けるとも、思えなかった。


「腹が減っても眠くなっても、用を足したくなってもこのままだ……」


 ニカッと笑うミオ。

 ざまぁみろと、心の底から思っていそうな笑みだった。


 このまま行けば、放置されてもいずれは仲間が助けてくれる。

 そう考えた二人は無言で視線だけを送り合い、これ以上のダメージを受けない様にしたのだが。

 しかしミオは。


「ああ。悪いけど……これからアンタらの仲間の所に行って、同じことするから」


 それつまり、各所でこのような……何故か動こうとしない騎士の一時停止が見られるという事だった。


「地肌の顔だけは動くし、息が出来るだけマシだろ。衣服だけが動かねぇようにしてんだし……じゃあな、あほの騎士さん。それじゃあジルさん……失礼しますよっ」


「え……あ!ちょっ……なん――」


 最後に二人にそう言い残して、ミオはジルリーネを抱きかかえて……消えたのだった。

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