6-126【蛮行の王国7】



◇蛮行の王国7◇


 金属音は鳴らない……男の剣による攻撃は、全て空を斬っていたからだ。


「この女っ、早えっ」


「お前が遅いんだっ!」


「なっ――ぐえっ!」


 振りかぶった際の隙に、ジルリーネは右手を振るった。

 ドスン――と、鈍い重さの一撃が男の腹に届いた。


「動きは素人、剣技もなっていない……本当にお前は【リューズ騎士団】の一員なのか?」


 膝を着く男に、見下げる様な視線を送るジルリーネ。

 男は憎々しい顔を浮かべて、ジルリーネを見上げる。


「ぐ、このあまぁ……俺を舐めやがって」


「やめておきましょうよ。この人……滅茶苦茶強いですって、新参者の僕たちじゃあ歯が立ちませんよ」


「……お前は戦わないのか?」


「はい。その人と違って、僕は戦闘系ではないですから……ですので」


「……むっ」


 もう一人の男は、ふところから何かを取り出す。

 ジルリーネも気付き、直ぐに反応したが。


 男はニヤリと笑みを見せ、言う。


「実はもう発動してたり?」


 ふところから見えたのは魔法の道具だった。

 行動阻害の効果を持つ、風を巻き起こす物だ。


「――ぐ……【気功脚ル・フデル】!!」


 ジルリーネは魔法を発動する。

 風に押し負けないように、脚力を強化する為の身体強化魔法だ。


「おっと、魔法ですか……」


 男はあせりもせず、更に魔法の道具を取り出す。

 その道具もまた、一瞬で発動をする。


(事前に魔力を注入していたな……この男っ)


「あは、いいですねその顔……団長が言った通りだ。高潔なエルフは不意打ちに弱い……古臭い正々堂々なんて、僕らがする訳ないじゃないですか」


 飄々ひょうひょうと言い張る男。

 その顔は恍惚こうこつにも似た表情だった。


「この……足がっ」


 膝を着くジルリーネ。

 身体が重く、動きが極端ににぶった。

 それに加えて風だ。横からの殴りつける様な風と、縦の重圧による動きの封じは、完全にジルリーネの動きを封じた。


「あぁ~いい。その顔いいですよ……最高だ」


「……おいマルクース、おめぇマジで性根わりぃな」


 口の悪い男が立ち上がり、腹をさすりながら笑みを浮かべる男に言う。


「あは、似た者同士でしょう?不意打ちをするゼノくんも。人の事は言えませんって」


「道具に頼るおめぇよりはまだマシだろ」


(どっちも……どっちだ!)


 ジルリーネの動きは完全に封じられていた。

 両膝を地面に着き、抵抗していた上半身までも、ガッ――と地面に落ちた。


「……さて、どうしますゼノくん。このお姉さん、どうやら前の・・【リューズ騎士団】の事を知っているらしいけど、城に連れて行くかい?」


「どうすっかな。めんどくせーのは厄介だから……ここでっちまうか?」


「あは。なら僕が……飼いたいなぁ」


「……この、騎士の風上にも置けない奴らめっ……」


「何とでも言えよ。俺等も、こうしないと命がねぇんだよ」


「ですねぇ。僕たちも死にたくはないですし……それに、言う事を聞けば自由を出来る……それで充分ですよ」


 まるで好きでやっているのではないと、そう言っているようだ。

 その行動と言動の食い違いに、ジルリーネは歯嚙む。

 油断した……と、このゼノと呼ばれた口の悪い男がメインなのだと錯覚して、こっちの下衆ゲスな笑みを浮かべるマルクースと言う男の方がメインだとは、思わなかった。


「……それにしても、エルフはいいですよねぇ。ゼノくんもそう思いません?」


「別に。エルフってのは長寿なんだろ?ただのババアじゃん」


「――お前、死んだぞぉ!!」


 地に伏しながらも、ジルリーネは叫んだ。


「あはっ……いい!いいですよその大声!綺麗な見た目の女性から口の悪い罵声!ああ最高だぁ……それを痛めつけるのも……最高なんですよっ!」


「……わっかんね」


 ゼノと呼ばれた男は呆れながら、剣を取る。

 カツカツとジルリーネのそばまで来ると。


「マルクース。道具を解除しろ……覚悟は出来たかい、エルフのババア」


「お前ぇ……エルフを一括ひとくくりにするなよ、わたしはまだ若いっ!!」


 らしくないジルリーネの大声。

 悪あがきか、それともそうとうババアという言動が腹立たしかったのか。


 その実態は。

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