6-123【蛮行の王国4】



◇蛮行の王国4◇


 ジルさんの温かさを背中で感じながら、俺は暴行を加えた騎士を見る。

 青年を一撃で昏倒こんとうさせた技術は確かに凄いが、乱暴な言葉を言った?たかがそれだけで、正規の騎士が暴力を振るうか?異常だろ。


「……このままだと連れてかれる。ん?もう一人は……?」


「あっちだ。また声を掛けている、今度は先程より少し幼いな」


 数人の騎士が、それぞれバラバラになって声がけをしている。

 その対象は、やはり男のみだった。


「なんで男ばっか……犯罪者って訳でもないよな?」


「ああ、そうは見えないな」


 俺の独り言にジルさんは答えてくれる。

 独り言のつもりで口にしてるから、言葉が若干荒いけど。

 年長者には失礼に当たるけど、許してくれ。


「ミオ……あっちを見ろ。北北西だ」


 北北西……って、北西よりもちょい北だ!

 俺は瞬時にそちらを向く。

 方角的には、【ディランデ公園】がある方角だ……俺がジェイルと戦った場所だな、懐かしい。


 そしてそこにも……ここにある大きな馬車と同型のものと思われる車体があった。

 しかし――違うのは。


「――な……もう、人があんなに」


「ざっと三十人はいる。全員男性だ……だが、少し年齢が」


 その言葉の意味は、馬車の外にいた存在で証明された。


「……子供たち?」


 公園だから、子供がいるのは当然だが……

 その子供たちは、檻の中に入れられた男性に声を掛けているように見れた。

 それはつまり。


「……父親だっ!あの騎士たち、子供の父親を連れてこうとしてやがるっ!」


 おりに入れられているのは、そのほとんどが三十代以下の年齢に見える。

 何か行事があったのか、公園には子供連れが多かったのだろう。

 そこを、狙ったのだと思われる。

 周りには子供たちの母親、おりに入れられた男性の妻らしき女性が泣いている光景まで見えた。


「無理矢理連れて行く気かよっ!何考えてんだ、国のやる事かよマジでっ!」


「ミオ……女性もいるぞ。あれは、冒険者だ」


「なっ」


 更に反対側。南南東の方角だ……そちらでは、騎士に迫られる女性冒険者の姿が。

 男だけじゃない。だけど、これではますます不明瞭ふめいりょうだ。


「……あっちって、商業地区……だよな」


「ああそうだ。冒険者が多く利用する店がある……まさか、それが狙いなのか?」


 それって、冒険者がって事?

 騎士の狙いが冒険者?それに……若い男性、働き盛りのお父さん……これって。


「「……まさか」」


 俺とジルさんは同時に気付く。

 その平和な街並みには相応しくない、蛮行。


 古き時代、当然のように行なわれていた行為。

 国のルールに基づき、強制的に民衆を兵にする――徴兵ちょうへいだ。


徴兵ちょうへいかよ……!」


「そのようだ。残念ながら、わたしたちではどうしようもないぞ、ミオ……」


「……くっ」


 分かってる、分かってるけど!

 平和な国だと思ってた。

 魔物は存在していても、人類での戦いなんてないって……信じ込んでた。


 兵を集めるという事は、戦いを起こすということだ。

 それは、クラウ姉さんが言ってたユキナリの奴の話とも相互関係が生まれる。

 ユキナリの馬鹿野郎は……他国の軍人なんだからな。


 そうなれば、嫌でも想像してしまうさ……戦争なんていう、最悪な展開を。

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