6-122【蛮行の王国3】



◇蛮行の王国3◇


 大型の馬車から降りて来た白い軍服の騎士たちは、威圧感丸出しの風貌ふうぼうで住民たちを見る。

 その光景は……まさしく異常。

 寒気を覚える程の、狂気だと感じた。


「物色してる……?」


「ああ。見ているな……だが、何が目的か」


 俺は馬車に付けられたおりを見る。

 初めは魔物でも入りそうだと思ったが……違う。

 何かが入ってた?それとも搬送する?


 この大きさだぞ……人だったら、百人は入れそうだ。

 人……人?あいつらが見ているのは……人だ。


「まさか……拉致らち?」


「こんな堂々とか?しかも軍の服で?」


 だ……だよな。

 しかもこいつらは軍所属……正式な国の使者だ。

 そんな堂々とした犯罪、この誰もが見ているような場所でする訳がねえ。


「じゃあ……なんで住民を見てるんでしょう?」


「……見たところ、男を見ているな。女ではなく」


 確かに。騎士の視線は男に向いてる気がするな。それも若い男に。

 ……男色、なんて冗談は通じないだろうな。

 それじゃあ男を見ている理由なんて、なんだ?


「女性も見ていますけど……何というか、普通の人は眼中に無い感じがします」


「そうだな。ん、一人が声を掛けるぞ」


 歩く男性に、一人の騎士が声を掛けた。

 若い男性だ。健康そうな、少しガタイの良い青年。


「何が目的なんだ?まさか街頭インタビューじゃないよな」


「なんだそれは。それに何の意味がある……」


 あ、あきれられた。

 でも地球にはあるんです。何の意味もない様なインタビューが!

 別に誰とも知らない奴のインタビューなんて誰も興味ないってのに!


「……長いな――ん、おいミオっ!」


「分かってます、連れ込もうとしてるっ……馬車に!」


 やっぱり拉致らちかよっ!!しかも男を!

 よりにもよって国の兵士がそれをするのか、国民を。


 その時だった。

 こばもうとした青年は、突然騎士に……殴られたのだ。

 持っていた剣のさやで、首元を強打……男性は崩れる。


「野郎っ!」

「まてミオ……っ!」


 その理不尽すぎる光景にキレそうになった俺を、ジルさんが身体全体で抱きかかえて押さえる。


「――ジルさん!?」


「落ち着けっ!まだ目的が不明だっ!それに、あの青年が少し乱暴な言葉を言ったんだ!」


 でも、殴ったんだぞ!

 無抵抗の一般人を、正規の軍人が殴ったんだ。


「だから落ち着け!……くっ、お前いつの間にここまで!」


 ジルさんの力でも、天上人に【超越ちょうえつ】した俺を押さえこむ事は容易ではないらしい。

 それでも俺が飛び出さなかったのは、暴れたらジルさんを怪我させてしまう可能性があったからだ。そこだけは冷静でいられて、良かったと思うよ。

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