6-121【蛮行の王国2】



◇蛮行の王国2◇


 その日、【リードンセルク王国】に激震が走った。

 越冬を備え始めるには少し遅い……そんな寒い冬の日だ。


 しかし……王国の行ったその行為は、断じて許してはいけない蛮行だと言う事。

 この日の出来事はこの先……未来永劫、歴史の中で語られていく。





 【ステラダ】の街がここまで喧騒けんそうな状態を、俺は見たことが無かった。

 慌ただしくする住民たちは、その巨大な物体に目を奪われている。

 その……大きな馬車に。


「……マジでデケェ……なんだよこのデカさ」


「これは、本当に馬車なのか?……あれは、魔法の道具?」


 俺とジルさんが広場を出て中央通りまで来ると、そこには巨大トレーラーのごとく大きな馬車が、その重厚感のある巨体をさらしていた。

 そのデカすぎんだろ……な馬車は、馬十頭以上でいて来たようで、更には今ジルさんが言ったように、車体に魔法の道具をもちいているようだ。


「風の道具っぽいですね。あれで車体の重量を軽くしてるのかも」


「そのようだな。それならあの数の馬でもけるという事か……」


 それにしても、かなりデカい。

 列車と言われても納得出来そうだ。

 【リードンセルク王国】に、こんなものを建造出来る技術があったんだな。


『――転生者が関連している可能性もありますが』


「……確かに。それもあるな」


「なにがだ?」


「あ、いや……あのデカい馬車、何の為の物かって」


 ついついウィズに返事しちまう。

 最近、口数減ってるからなんとなく嬉しくなってた。


「なんの……か。馬車の後部、あれはおりではないか?」


おり?……ああ、確かにそれっぽいですね」


 身体を傾けて確認すると、確かに後ろに馬鹿デカい鋼鉄のおりが。

 魔物でも入っていそうだけど……中は、何もいないな。


「魔物の気配もないし、この馬車マジで国の物ですか?」


「――ああ。軍旗ぐんきかかげられているし、まず間違いない。む、おいミオ……兵が降りて来るぞ」


 その言葉に、俺とジルさんは何となく身を隠した。

 様子見。何が起きているのかを認識しないとな。


「……」

「……」


 せっまい!!ちょっとジルさん!何がとは言わないけど当たってます!

 俺の頭に乗ってっから!大きなものが乗ってっから!!


「……あの兵たち、【リューズ騎士団】の騎士だ」


「え、それって」


 【リューズ騎士団】、ジルさんが正式に所属する組織で、個人が自由に仕事を選べるまさしく自由な騎士の集まり。

 ジルさんもその自由なルールのおかげで、【クロスヴァーデン商会】に長く居たんだもんな。


「ああそうだ、同僚だな。だが、見たことは……ない奴らだ」


 そんな奴らが、軍所属の馬車から降りて来た?

 しかもなんだよ……あれは軍服か?その上には軽鎧を着込んでいる。

 白地に青線の軍服、まるで正義の味方のようだ。

 胸元にバッジ……あれが【リューズ騎士団】のマークかな、それでジルさんは判別したのだろう。


 しかし、そう思ったのは一瞬だった。

 その騎士たちは……一般住民たちを物色し始めたのだ。

 まるで、獲物を狙う狩人のように。

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