6-120【蛮行の王国1】

6章-ラストpartとなります。話数は未定です、長いかも?

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◇蛮行の王国1◇


 さてと、この育った西瓜すいかだけど……どうしたもんか。

 食うのはいいけど……そんな数は無いぞ。

 そう思うのも、実は俺たちの周りに群がる人物たちがいたからだ。


「じー」

「すっげぇ」

「さっきまでなにもなかったのに!」

「おいちそう」


「なっ……ま、待つんだ子供たちっ!これはそうそう……あ、こら!乗るんじゃない!」


 ジルさん……張り合うなって。

 しゃがんでいた所に小さな子が乗って来て、若干苛立ったな。

 女の子でよかったね。


「なぁんだお前ら~……黙って遊んでろよ~」


 俺も視線を合わせて、笑顔で言う。

 内心そんな事は思っていない。だってこれはチャンスだからな。


「食いたいか?」


 既に、子供たちはこれが食い物だと理解は出来ているようだ。

 なんたってすげぇ甘い匂いがただよってるしな。


「くえんの?」

「たべたいっ!」

「いいんですか!?」


 子供は素直だねぇ。

 まだ言いとは言ってねぇんだけど。


「おう、いいぞ。待ってな、切ってやるからさ……見てろよ?」


 そう言って、俺は。


「はいジルさん。切ってください、仕事ですよ」


「わたしがかぁ!?」


 だって刃物持ってないし。怖いし。

 ジルさんも私服だけど、その腰の剣は飾りじゃないだろう。

 頼んます、だってあんたも食うだろ?


 その思いを視線で感じたのか、ジルさんは腰の細剣を抜こうとした……が。


「――ん?」


 長い耳をピクリと動かして、ジルさんは止まった。

 どうした……?


「ジルさ――」


「しっ!」


 剣を持った方で俺を制止する。

 おわぁぁぁ!危ないから!

 そのタイミングで剣抜かないで!!


 反対の手では、口元に指を這わせていた。

 俺も子供たちも、その剣幕に黙りこくった。


「……」

(ウィズ……何かあったのか?)


『――周辺に微動な振動を観測……しかし、地震などではありません』


 じゃあなんだ?ジルさんだけが感じるような事か?


『……この振動は、馬車によるものです。それもとても大きな……日本で言えば、大型トレーラー程でしょうか』


 トレーラーサイズの馬車……そんなデカいのか?

 この国の馬車って、大きくても十人乗れればいい方だったよな。

 それでも大型トレーラーの大きさには程遠いはず……じゃあ、なんだ?


『ですから馬車です。その名の通り、馬でく車です』


 違うって。そうじゃなくて……それがこの近くにあって、その振動をジルさんの耳が感知したって事だろ?あまりにも突然すぎるんだ。

 それと……エルフの耳、良すぎだろ。


「ジルさん……馬車がどうかしました?」


「――ミオ。お前も聞こえたのか……」


 いや、聞こえはしないけどさ。


「はい。それが何か?」


「おかしいんだ。これほど大型の馬車……【ステラダ】には一台もない。馬の数も……相当だぞ。まるで大型の魔物でも……いや、そんな気配はないな」


 自分で考察をして、自分で解決する。

 確かに、そんな魔物の魔力は感じないな。


「行くぞミオ……なんだか気掛かりだ。この野菜はまた後だ、子供たち」


「「「「ええ~!」」」」


「……了解です、行きましょう……悪いな皆、今度また食わせてやるから。約束だ」


 気になると言われればほっとくわけにもいかず、俺は子供たちに謝って西瓜すいかを……【無限むげん】で地面を操作して隠した。

 飲み込まれていくように、地面に埋没していく。


「うわぁぁぁ!」

「すっげぇ」

「まるいのないなった!」


「ああ……未知の野菜が……」


 子供たちと、それからジルさんも盛大にがっかりしている。


 仕方ないだろ。なにせまだお披露目には早いからな、このまま放置して置いたら誰かに持ってかれるかもしれないし、種だって数がある訳じゃないから処分も出来ない。

 だから折角育った西瓜すいかには悪いが、地面の中で待っていてくれ。

 【無限むげん】で操作して、騒動が終わったら出してやるからさ。

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