6-118【一つの未来の一欠けら5】



◇一つの未来の一欠けら5◇


 チート能力――【豊穣ほうじょう】。

 俺が初期から使えていた、任意・自動発動型の能力だ。

 自動では、植物の育成環境を整える効果を、土や肥料に与える。

 任意では、植物を強制的に成長させる。


 そしてどちらも、異常な強さを持った美味しい物に育つ。

 環境に負けない、冬でも枯れない草木は勿論もちろん

 桃栗三年柿八年……そんな言葉があるような木々たちも、この能力の前ではゆっくり寝ている暇もない。


「【豊穣ほうじょう】……芽生めばえろっ」


 一粒の種だけ手のひらに残して、俺はその黒い種に魔力を注ぐ。

 この黒さ、遠くから見れば虫に見えちまう残念な見た目。

 おそらく全人類が、口から吐き出す率ナンバーワン。

 夏の定番……西瓜すいかだな。


「お、お、おおっ……!!」


 瞳をキラキラとさせて、ジルさんは俺の手のひらに注視している。

 途端ににょきりと、芽を出す西瓜すいかつる


「こんな感じで……俺には植物を育てる力があるんですよ。これはティアにも見せてます。まぁ、最初に使った時はぶっ倒れたけど……今の俺なら一日中やってても平気ですね」


 そんな俺の言葉を聞いているのか、ジルさんは伸び続けて行くそれを見ている。

 随分と嬉しそうだ。植物イコール森が再生するイメージなのかもな。

 だけど、それが俺の目的でもあるんだぜ?


「ジルさん……俺がこの力、ジルさんが追われたって言う森に使ったらどうなると思います?」


「――!!」


 俺も、【ステラダ】に来てからは沢山勉強したさ。

 エルフは、戦争に負けて国を追われた敗戦種族だ……そこから、エルフの扱いは変わったんだとさ。

 エルフの国を侵攻した、その国の名は――【テスラアルモニア公国】。

 今はもう、その領土すら残っていないエルフの国――【パルマファルキオナ森林国】。

 【リードンセルク王国】の南に位置していた国だ。


 森林伐採、焼き討ち……歴史書に載っているだけでも、相当なものだったよ。


「ミオ……わたしは……」


 俺の力を目の当たりにしたジルさんは、ポロリと一筋の涙を流した。


「出来ます。俺なら……時間を掛ければ、森を復活させる事も。ジルさんが……いや、ジルさんの同胞たちが長年悩み続けてきたその苦悩を……解決出来るんです」


 それが、一番の交渉材料だった。

 ジルさんが……過去にどういった経緯を過ごして来たかは分からないし、無理矢理聞き出そうとも思わない。

 だけど、未来には必要だ……俺とミーティアの描く理想に、その一欠けらが。


「森が……よみ、がえる……?」


「はい」


「散らばった同胞たちが……国民が……わたしは……」


 国自体は、それほど大きい国ではなかったと記されていた。

 それでも、木々におおわれた魔力が豊富なその土地……他国から見れば欲しい物だったんだろう。

 当時の王……つまりジルさんのお父さんの代で、それは起こった。

 王子の裏切りで、【テスラアルモニア公国】は侵攻してきた……その王子ってのは……ジェイルだろうな。

 もう何十年も昔のこと……それでも、当事者はここにいるんだ。


「ジルさん。俺はティアの為に……ジルさんにも協力しますから。だから、一緒に行きましょう……未来には、あんたが必要だ」


 もう、答えは出ている。

 ミーティアとジルさんが手を取りあった時に、もう解決してはいるんだ。

 だから、これは俺の思い。

 ミーティアの為にはあんたが必要だと言う……俺の我儘わがままだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る