6-117【一つの未来の一欠けら4】



◇一つの未来の一欠けら4◇


『――ミオ』


『ん?アイズ……どうした、いいのか休んでなくて』


 俺が突如とつじょの帰省を果たして、そして慌ただしく【ステラダ】に帰る準備をしている時、アイズが訪問してきた。

 体調が悪いことを知っている俺は、そうアイズに言ったのだが。


『あたしの事はいいのよ、気にしないで』


『そう言われてもな……』


 荷造りを止めて、アイズの方を向くと。

 アイズは俺のベッドに座り込んだ……深く深呼吸をしている。

 やっぱり悪そうに見えるって、無理すんなよ。


『はいこれ。選別よ』


『……種?』


 突然渡された、数々の種子。

 色とりどりでありながら、どこかで見た事のあるようなものが多い。


『もしかして、地球の?』


『そ。お土産みやげよ……ほら、アボカドもあんたが拾ってたみたいだし』


 あの山に落ちてたアボカドの種の事か……お前だったのかよ。

 どうりで理不尽に落っこちてるはずだよまったく。


『お前がいた……神界?から落としてくれたのか?』


『くれた……じゃなくて事故だけど。部屋から直接転送されたわ』


『おい』


 なにその便利機能。SFじゃねぇか。

 星を旅する的な異世界でもよかったんだぞ?


『ま、とにかく受け取んなさい。これがあれば、もっと有用な野菜や果物を作れるでしょ』


 そう言って、俺はその種子を受け取ったんだ。

 ミーティアの為に……使えるんじゃないかと思ってさ。





 それが今、この時だ。


「何の種なんだ?見たところ……随分ずいぶんと珍しい物ではないのか?」


「そうです。アイズが俺にくれた……別の世界の食べ物ですよ。ジルさんがお気に入りの【スクロッサアボカド】も、その一つです」


「――な、なんだと!?それでは……この種も、あれほどの美味な野菜に……」


 ごくりと、ジルさんの喉が鳴った。うん、聞こえたよ。


「ですね。まだ何が育つかは分かりませんけど、俺はこの野菜たちを……ティアの商会で卸そうと思ってます。目新しい物は潰されがちですけど、食べてもらえさえすれば成功できます。それはアボカドで実証済みですし」


「……なるほど、それなら確かに……じゅるり」


 よだれはまだ早いって。まだまだ実行は先だから。

 それにしても、やっぱりジルさんは野菜に弱かった。

 森国出身で、他の国では食生活が不規則になっていたからか、ジルさんはスクルーズ家の野菜に首ったけだ。

 信仰する女神の事と野菜の事……これだけで充分ジルさんを落とせると思ったんだ。


「食はなにより大切。特に野菜はエルフ族の主食でしょう?」


「そ、それはそうだな。うむ、それは大切だ」


 まるで自分に言い聞かせているように見えるのは、俺の気のせいですか?


「ジルさんは王女様だし、種族の繫栄も考えているはずです。エルフは森でこそその価値を高めると思うし、やっぱり森で生活できれば、心もいやせると思うんですよね」


「な、何が言いたいっ!その笑みをや、止めろぉぉー!」


 もう落ちてるんだって。

 そんな笑顔で、「次は何をしてくれる」って顔をしちゃってさ。

 可愛い所あんじゃん。


 ジルさんは満面の笑みで俺の肩を叩く。

 バッシバッシと……力よ。


「痛いっす。なら……次はこれです」


 俺はウィズにお願いする。

 能力――【豊穣ほうじょう】の発動だ。

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