6-95【帝国精鋭部隊4】



◇帝国精鋭部隊4◇


 この場にいるほとんどの人が思ったことだろう。

 「どうして天井うえから?」と。


「あらユキナリっ……やっと帰って来たのねっ」


 一人だけ、その疑問を持たない少女は声色を明るくし、上を向いて叫んだ。

 声を風に乗せるように。


「うぉわぁぁっ!姫さん……声でかっ!」


 ビクッ――としながらも、ユキナリは天井てんじょうに張り付いた足を離して落下を始める。

 「よっと!」と、反転して着地し……全員に笑顔を見せる。


「かはは!待たせたなっ!!」


「待ってはいない」

「待ってないです」

「待ってないよ」


 ユキナリの言葉に、ロイド、ライネ、ゼクスの順で返答するが、見事に一致。

 しかし、他の二人は。


「待ってたわ!」

「お久しぶりね、ユキ」


 セリスフィアとエリアルレーネは、歓迎ムードだった。

 皇女はかがやくような笑顔でパチパチと手を叩いており、その温度差が分かる。


「おーおー!ありがとな姫さん、エリアも!――で!!なぁんだよぉ……お前らも、もっと歓迎しろって!半年ぶりだぞ!?」


 二人に感謝を向けると、直ぐに否定してきた三人に不服を申し立てた。

 スタスタと歩いて、特にライネに言いたい事があるようで。


「おいライネ、お前は後輩なんだから、もう少し先輩をだなぁ!」


 しかしライネは首をかしげて。


「はい?先輩……?どこですか、私には誰一人として見えませんが」


 長い前髪の隙間から見える瞳は笑みを浮かべてはいるのだが。


「かははは!!ひっでぇ!」

「こら、わきまえろライネ」

「いやいや、僕たちもいるけど!?」


 ライネは十五歳……もう直ぐ十六にはなるが、この中では一番の年下であり、後輩だ。当然、年上の男衆は全員対象だった。


「まぁいい……ユキナリ。ミリティ様の予言、『小さな天使』の件はどうなった……?断罪者は?」


 ロイドが言う。

 皇女に言われた事を、多少は気にしていたのだろう。


「あ~……うん。まぁ見つけたよ、それらしいおチビちゃんは」


「やるじゃないユキナリ」

「見つけたのに?」

「で、どこにるんだい?」


 セリスフィア、ライネ、ゼクスの言葉だ。


「……」


「ん?どうしたのユキナリ……その天使さんは?」


 ユキナリはバツが悪そうに苦笑いをしながら、こう言う。


「かはははっ!――断られたっ!!」


「「「は?」」」

「あははは!やっぱり!」


 仲間三人はイラっとし、皇女は笑いながら当然のように。


「かはは……『君と肩を並べるくらいなら、私は舌嚙んで死んでやるわよっ』だってさ~!何か知らんけどめっちゃ嫌われてたわ!!」


「「「「……」」」」


 今度は流石さすがに皇女も絶句だった。

 若干頭を抱えている。


「は、はーい、そこまで♪皆久しぶりに揃ったのですから、報告会ですよぉ♪ここではなく、会議室でね♪」


 ポン……と、エリアルレーネは優しく手を叩くが、内心は同じくだろう。

 しかし全員が素直にしたがい、口論は続かない。


「りょ、了解です」

「は、はい!!エリアルレーネ様!」

「わ……私は初めからそのつもりですけど」

「うん、まぁそうね。ほら皆、会議室行くわよっ」


 ロイド、ゼクス、ライネ、セリスフィアが順に言う。

 そしてユキナリは、エリアルレーネに。


「エリア。母さんは……?」


 自分の失敗をまるで気にしない素振そぶりで。

 不安気で、まるで迷子の子供のように。


「……大丈夫ですよ。ミリティは養生しています……【神告しんこく】も、あれ以来発動していませんし」


「そっか……よかった。それだけが心配だったんだ」


「はい♪ミリティはユキを愛していますからね……そう簡単にくたばりはしませんよ……今はまだ、その運命ではありませんし」


「い、言い方……でもまぁ、ありがと」


 優し気な笑顔を見せて、ユキナリは女神と共に仲間を追う。

 帝都【カリオンデルサ】に、転生者帰還する……その場所もまた、転生者が集まる異常の地。


 転生者の部隊……【帝国精鋭部隊・カルマ】。

 西の大地、冬の始まりにて……転生者は着々と準備を始めている。

 それと同じく……北東の国【リードンセルク王国】でも、動き出す者がいる。


 二ヵ国の思惑おもわくは……そして巻き込まれるのは、いったい誰なのだろうか。

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