6-96【死を振り撒く者1】



◇死を振り撒く者1◇


 北の大国、【リードンセルク王国】。

 西南の最大規模の国【サディオーラス帝国】、東南国【テスラアルモニア公国】、東国【イングラス共和国】と隣接するその国は……現在、王位の切り替わりで大忙しだった。


 秋の終わり……王である男が、死んだのだ。

 既にその権威けんいは失われ、娘である王女がその実権を掌握しょうあくしてはいたのだが、遂に……その命まで、奪われた・・・・


 そう……殺したのは、娘。

 シャーロット・エレノアール・リードンセルクだ。


 王女シャーロットは、準備期間としてその行動を制限していた。

 自分が身勝手な悪意を向ける転生者……武邑たけむらみおにその殺意を指示さししめす為に、長い時間を掛けている。


 夏から秋にかけて、先ずは自分の手足を整えた。

 王女と言うしがらみで動けない自分の代わりに、その役目を果たす手足だ。

 その多くが……【リードンセルク王国】の騎士団の中にいる。


「殿下……【王国騎士団・セル】、騎士団長アレックス・ライグザール……参上いたしました」


「……」


 こうべを垂れる金髪の青年。

 緑色の瞳は……復讐の対象ターゲットに似ていて非常に殺意が高まる。

 だからこの男を選んだ。忘れない為に、恨みを増すために。


「その男は?」


「はい。新人です……ですが、有能です」


 こうべを垂れたまま、アレックス・ライグザールは言う。

 青年の後ろには、もう一人の青年がいたのだ。

 シャーロットはその男を見た瞬間に……気付く。


(……転生者ね)


 左胸にかすかにかがやく……【エナ】を感じて。


 シャーロットは、【エナ】を感じることが出来る。

 転生者にしか発生しない特別な力を、この王女は判別出来るのだ。それが、シャーロットが【女神イエシアス】に協力をして、転生者探しが出来ていた理由だ。


「確か……貴族出身だったわね」


「おお!僕をご存知ですかっ」


 大袈裟おおげさな動きで、前に出る青年。


「おい、リディオルフ・・・・・・不敬ふけいだぞっ!」


 アレックスは流石さすがに怒った。

 年下の小娘に接するような、同じ髪色の少年に接するような余裕は一切ない。

 焦ったようにもう一人の青年の襟首えりくびつかんで、頭を下げさせた。


「いてて……痛いっす、団長」


「お前が馬鹿をするからだっ!」


「……」

(この男……シュカオーン家の)


 シャーロットは覚えていた。

 近付いた訳ではなかったのが理由で、その時は転生者だと判別は出来なかったが。

 王家が主催する貴族のパーティーに、この男も見かけた記憶があった。


(パーティーなんてくだらないと思ってたけど……そうか、こういう形で転生者を見つける事もあるという事ね……なら、今後は気を付けるか)


 そう考えると。シャーロットは玉座から立ち上がり、リディオルフへ向けて。


「お前、シュカオーン家の……長男だったわね。こちらへ来なさい」


「……殿下!?」


「――はいっ!」


 アレックスの手を振り解いて、リディオルフは嬉々としてシャーロットの元へ向かう。

 赤いカーペットが敷かれた階段を数段昇り、ひざまずくと。


「光栄ですよ、シャーロット王女……これで僕の力も、見せつけられる」


「……」


 そうシャーロットにしか聞こえない小さな声で言う。

 シャーロットは表情を変えずに、無言だ。


「王女が色々とお力を持っている事は……あの女神に聞いてます。だから逆らいはしませんよ……あの女神は僕を追って来るんですよ、能力を寄こせって。だから王女の役にも立ちますよ……きっと、僕はね。後ろの優男なんかよりも、もっとね」


「……」

(イエシアスから逃げ切った……という事か。能力で)


 つまり、女神から能力を奪われない為に、力を貸すから自分を優遇しろ……そう言いたいのだと、シャーロットは瞬時にさっした。


「ならば……力を見せなさい。私に認められるような能力があるか……」


「――承知しました、王女」


 そう一言はっすると……リディオルフは、シャーロットの眼前から姿を消した。

 文字通り、消えたのだ。


「……」


 しかし、シャーロットは格別おどろく事無く、冷静だ。

 消え去る瞬間に胸がかがやき、能力発動の兆候ちょうこうが見えたからだ。

 アレックスはキョロキョロとして、慎重ながらもリディオルフを探しているが。


「……完全に消えたわね。でも……そこでしょう?」


 シャーロットは視線を移す。

 その場所は――玉座。

 先程まで自分が座っていた……豪奢ごうしゃな椅子。

 そこに、足を組んで座っていたのだ。

 如何いかにもなしたり顔で、シャーロットを見ていた。


「あ~。王女はマジでやばい人なんですね……僕の能力を、こんなあっさりと……」


 両手を挙げながら立ち上がり、リディオルフは王女を褒める。

 言葉は汚いが、リディオルフからの本心だ。


「簡単な事よ。退きなさい」


「これは失礼を」


 直ぐに階段を降りていくリディオルフは、戻った瞬間にアレックスに「馬鹿者っ」と、さとされている。


「……貴族会議。終わっていたわよね……騎士団長」


「――はっ。とどこおりなく」


 先日行われた、国中の貴族と有権者を集めた会議だ。

 その中には、国の大商人……ダンドルフ・クロスヴァーデンもいた。


「軍資金は【クロスヴァーデン商会】から。人員は国中から集めなさい……徴兵ちょうへいでもいいわ。とにかく今は、国を整えるから……老害おうが死んで、多少の混乱もあるし、大臣ちちおやに伝えておきなさい。いいわね?」


「……」


「――返事」


「は、はっ……!」


 アレックス・ライグザールの父親は、この国の大臣だ。

 その父親も、身体の不調を訴えて養生している。


 今、【リードンセルク王国】の中枢ちゅうすうは……若返りを見せているのだ。

 そう……理不尽なほどの、急速なスピードで。

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