【冒険者学校】冬編

6-92【帝国精鋭部隊1】

新キャラ続々回です。partは4まで。

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◇帝国精鋭部隊1◇


 【サディオーラス帝国】……帝都【カリオンデルサ】。

 同じ国内で時差があるほどに広いその国の西側に、その大きな都は存在する。

 最東端の村までは、馬車で移動するのが馬鹿らしくなるほどに遠く、時間を要する。

 そんな帝都には、古くからみかどに協力をする人物……いや、女神が存在した。


 名を……【運命の女神エリアルレーネ】。

 緑石色エメラルドグリーンの髪は地面に着きそうなほどに長くサラサラで、細く繊細だ。

 

 特別着飾る訳でもないと言うのに、その美貌びぼうからは溢れんばかりのオーラがかもし出されていると、国では言われている。


 そのエリアルレーネが、どうしてそこまで一般的に知られているのか。

 それには訳があった。

 エリアルレーネは、他の女神とは違う……自由が許された女神だったのだ。

 【運命】の名をかんする女神であり、その恩恵おんけいは数多い。

 自分の影響下に置ける転生者も、多く存在するのだ。


「……あら、みなさんごきげんよう♪」


 帝都民に声を掛ける、その軽やかな声の持ち主こそ……【女神エリアルレーネ】だ。


 ここは……帝都の下部。

 段差の多いこの都は、もともと山があった位置に作られた斜面の都市だ。

 上部には帝城と、貴族が住まう豪華な場所があり……中部には商店や飲食店が並んでいる。

 そしてここ……下部では。


「おお……女神さまがお声を……」

「ありがとうございます……ありがとうございます」

「ありがたや、ありがたや」

「女神さま、これをどうぞ……」


「?……なんですか、これは」


 貧民が多く存在する、その場所。

 年寄りがその多くを占め、職も家も持たない者も多い。

 つまり……貧民街だ。


 エリアルレーネは老年の男から何かを手渡される。

 言ってしまえば、小汚い格好をしたまずしい存在……服は土埃で汚れ、入浴すら出来ていないであろう身体からはにおいも出ている。


 しかしエリアルレーネは、そんな事など気にもせずにその差し出された物を受け取った。


「……木彫りの……像?」


「はい……女神さまをして作ったものです、どうぞ……お受け取りを」


「まあ……それは嬉しいですわ、ありがとうございます♪」


 自分をしたと言うその木彫りの像は、お世辞にも上手ではなかった。

 だが、そんな事はどうでもいいとでも言わんばかりに、エリアルレーネは笑顔を見せた。


「――ではお預かりいたしましょう。ライネ」


「はい……」


 エリアルレーネは、影のように後ろにひかえていた人物にその像を渡す。

 ライネと呼ばれた少女は、長い前髪で隠れたその眼光を一瞬だけ見せて、その木彫りを受け取り……仕舞う。


「エリアルレーネ様。そろそろ見つかってしまいますよ……?城に帰らないと」


 話しかけられた好機を逃さんと、自由気ままな女神に言葉を送る少女。

 少女の服装は軍服だ。黒い軍服。

 幼いながら、この少女は国の軍に所属する正式な軍人ということだ。


「あら?もうそんな時間……おかしいわね」


 腕を組んでわざとらしく考える女神。


「いちいち街中で立ち止まるからですよ……」


 前髪で隠れたその瞳には、鬱屈うっくつした感情がめられている事だろう。

 この少女、ライネ・ゾルタールは……この国の貴族に生まれた転生者だ。

 伯爵家の娘……しかし、兄弟が多かったため優遇はされず、自分の努力だけで軍人となった。

 その才能は転生の特典ギフトによる成果も多分に含まれてはいるが、戦いの才能はずば抜けている……いわゆるところの、天才なのだ。


「え~……わたくしのせいですか~?」


「はい」


 グサッ……と、その言葉は女神の薄い胸に刺さった。


「ハ、ハッキリと物を言いますね……心が痛みました」


 胸を押さえて、エリアルレーネは苦笑いを見せるも、ライネは。


「刺さるように言いましたので。では行きましょう……そろそろ貴女あなた様の秘蔵っ子が、戻ってきている頃でしょう」


 その言葉に、女神は。


「――ユキが!帰ってくるのですかっ!?いつですかっ!!」


 ズイッと迫り、自身と同じくらいの身長の少女の前髪がふわりと浮かび上がった。


「……それは存じませんが、エリアルレーネ様が寄り道なんてしなければ、今頃会えていたかもしれませんね」


「はうっ!また……刺さることを言うぅ」


 仰け反って胸を押さえる。

 その様子を見て……貧民たちがクスリと笑っていた。

 本来ならば、不敬に当たるその行為……ライネはとがめる真似をしない。


「……ふふふ……少しは元気が出てくれましたか?みなさま……それでは、これから寒くなります……どうぞご自愛を」


 ペコリと頭を下げ、エリアルレーネはライネと共に去っていく。

 ライネは頭を下げないが、視線だけは送っていた。

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