6-88【転生者、その存在価値2】



◇転生者、その存在価値2◇


「はい。飲みなさいよ……」


「お、おう」


 悪いとは思わないけれど、一応はびをする。

 喫茶店でテイクアウトした飲み物をフドウくんに渡して、私もそれを飲む。


「あ、美味しい」


「ずずず……お、本当だ」


 音を立てるんじゃないわよ。

 お茶じゃないのよ?スムージー的な飲み物だから。

 でも、そう言う所は日本人的かもね。


 内心そう思ったけど口にはせず、私は彼に話を振る。


「それで、フドウくんはこの秋……何をしていた訳?夏から、見てなかったけど」


 ユキナリ・フドウ。

 こんな異世界で日本人を名乗る、転生者。

 夏……一時いっときは争う可能性があった、そんな少年。

 【アルキレシィ】討伐の一件から、実は姿を消していたのだ。


「ん?ああ……各地で遠征任務受けてたぜ。ほら、【ステラダ】以外にも【ギルド】はあるじゃん?報告はまとめてになるけど、一気にポイント稼げると思ってさっ」


 へぇ……意外と考えてる?


「そうなの。で、結果は?」


「……」


「……?」


 なにその「それ聞くの?」みたいな顔は。

 あなたが話しかけて来たんだから、責任取って答えなさい。

 私はそんな考えを顔に出して、フドウくんを睨む。


「わ、分かったって……言うよ」


 若干引き気味に、フドウくんは覚悟をして答える。

 ちょっとおかしくない?なんで私が怖がられてる感じになってるの?


「実はなぁ……俺、対軍人クラスに移りたいんだよ」


「はい?B組からって事?……なんでまたそんな」


 なんとも面倒臭めんどうくさい事を考えていた。

 クラスの移動はそう簡単ではない。首席の私でさえ、試験の結果でしか移る事は許可されないのだから。

 まぁ、その場合は移動ではなく、単純に降格と言った方が正しいけれど。


「俺はもともと、軍人クラスをしょみょうしてたんだ」


 もしかして所望しょもうって言いたい?

 もうスルーでいいわよね?


「クラス分けは試験の結果によるわ……つまり君の場合、対魔物クラスが相当だと教官たちが決めたって事になる。それが不服なの?」


「う~ん。だって、魔物と戦っててもつまんねーしなぁ」


 フドウくんは両手を上げ、後頭部に持って行く。

 ベンチの背凭せもたれに思い切り身体を預けて、伸びる。


随分ずいぶんと余裕な事を言うわね」


「かははっ。まぁね……人間相手の方が断然楽しいっしょ!戦いはっ」


 物騒な事を大変素晴らしい笑顔でのたまう彼に、不気味さを感じつつも私は聞く。


「まるで闘争を求めているかのような言い分ね。それじゃあクラスの移動なんて認めてもらえる訳ないじゃない、それじゃあまるで――」


「――戦争屋?」


「――!」


 彼はしゃに構えた態度で、私に視線を送る。

 対軍人クラスの目的は、その名の通り軍人との戦いを想定している。

 つまり、そのクラスの最大の目的は……軍人になる事だ。

 それを望むという事は、このユキナリ・フドウと言う男は。


「あなた……軍人になる事が目的なの?」


 フドウくんは「よっとぉ!」と言っていきおい良く立ち上がり、座る私に背中を向けたまま、視線だけを向けて言う。


「……目的って言うか、俺――軍人だし?」


「な、んですって……?」


 フドウくんは少しだけ歩き、振り向く。


「――俺は、【サディオーラス帝国】……【帝国精鋭部隊・カルマ】所属、ユキナリ・フドウ。帝国が所有する転生者部隊の一人さ」


「転生者……部隊……」


 それは、多くの転生者が存在すると言う事。

 そしてその言葉の意味は。


「クラウ・スクルーズ……あんたも来ないか?こっちに……」


 私に差し出す右手は、欲望の手だ。

 直感的にそう感じた。

 アレも欲しいコレも欲しい……そんな欲望の魔手が、私の心をつかもうと……迫ったのだった。

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