6-89【転生者、その存在価値3】



◇転生者、その存在価値3◇


 転生者の部隊……そんなものが、【サディオーラス帝国】に存在しているの?

 いきなりそんな事を言われても、戸惑うばかりよ。当たり前だわ。

 それに……私もミオも、自国――【サディオーラス帝国】のほとんどを知らない。


 国の最東端、それも最近まで孤立していたような小さな村で、情報が入ってこない自国の事を、まさか赤の他人から聞かされるなんて。


「ん?どした、クラウ・スクルーズ……答えは?」


 私に手を差し向けるフドウくんは、本気で私をスカウトしているようにも見える。

 ただし、この男がどこまでの本気度なのかは……正直言って読めない。

 それに、どうして私をスカウト?しかも軍人に?


「あれ?そのキョトン顔……もしかして自分の価値に気付いてない感じ?マジ?」


 煽るように、フドウくんは私に視線を向けてそのつり目をゆがめた。

 いちいち腹立つわね、そのニヤついた顔までムカついてくるわ。


「――だったら説明してちょうだい。そうね……私が爆発しないうちに……」


「――っ」


 ギロリと睨むと、「へ、へへっ……」と口端を吊り上げながら苦笑いをするフドウくん。


「オ、オーケーオーケー、そんなに睨むなって……」

(ビ、ビビった……俺が怯むなんて、おっかねぇなぁ……)


 フドウくんは、差し出していた手を上に挙げて降参のポーズ。

 初めからそう言う態度で接しなさい。

 それなら、こちらだって多少の了見りょうけんはしてあげてもいい。


「まずだなぁ……えっと、何だっけ?」


「――私が知る訳ないでしょ」


「……おチビが威圧してくるからだろぅが……忘れちったよ」


「は?」


「なんでもないです!続けさせていただきますよっ!」


 男の子って、こう言う所よく似ているわよね。

 女の子の圧に弱いと言うか何というか。


 フドウくんは何故か私と距離を開いて。


「……さっきも言った通り、俺は帝国の軍人さ。転生者が多数いる、精鋭部隊のな」


「【カルマ】……だったかしら?」


 私の顔に指を差して。


「そう!!えらいぞおチビ!」


「――【クラウソ】――」


「だぁぁあ!ジョーダン、ジョウダンだって!その物騒な剣は出さないでくれっ!俺の天敵なんだから!」


 シュゥゥン……と光の剣は静まっていく。


「続けて」


「はい。いいか、帝国は……転生者を集めてるんだ、俺もその一人だし。でもって俺の任務は……外国の転生者を、集めて国に連れてくことさ」


 転生者を、集める?


「どうやって。って顔してるな……」


 その通りね。実際分からないわ、転生者の判別なんて。

 それこそミオのように、自分から転生者にしか伝わらないようなワードをポロッと口にでもしないと――でも、もしかしたら。


「帝国には、それが出来ると言うの?」


「……そう、そのとーり。大正解だよ」


 そういう能力を持った転生者とか……かしら。

 私は両の指を絡ませて、考える。

 しかし、そんな想像よりも……読めなかった答えを、フドウくんは簡単に口にした。


「なんせ、女神さまが帝国のコンブだからなっ!へへっ」


「――女神、ですって……?」


 フドウくんが幹部を言い間違えた事も気にしないくらい、その言葉は強烈だった。

 女神……アイズレーンやイエシアスのような、超常の存在が……かの国に。

 そんな女神の一人が、転生者を探す為に、人間に力を貸しているという事だからだ。


「ああ。俺を転生させてくれた女神……エリアルレーネがな」


「エリアルレーネ……」


 聞いた事はない。

 フドウくんは、その名を口にした途端……まるで子供のように目をかがやかせて言う。


「エリアルレーネはすげぇんだっ!母さんの予言も、皇帝の命令も、全部全部先に当てちまうっ!」


「ちょ、もっとゆっくり……」


 お母さんの予言?皇帝の命令?

 ちょっと待ちなさいよ……情報が多くて、話が――


 しかし、そんな私の心中をさっする事なく。


「――転生者はいずれ世界を変えるんだってさ!エリアルレーネは言った!だからもっと転生者が必要だって、集めるんだってさぁ!女神の知恵に母さんの予言、これがあれば転生者を探す事だって簡単なんだよっ、おチビのように。そこ・・に力を宿す転生者なら、特に簡単だからなっ」


「そこ……?」


 フドウくんは、自分の胸……左胸に親指を突き付けている。

 そこ、とは……心臓の事なのかしら。


「ちょびっとだけどさ、見えるんだよ……能力を使う瞬間、転生者特有の――【エナ】が」


 エナ……?

 また聞いた事のない様な事を言い出す……情報が追い付かないってば。


「【エナ】ってのは……えーっと確か、そうそう」


 もしかして、忘れかけてる?

 女神にでも聞いた事……の可能性があるわね。


「【エナ】は、転生者だけが持つ能力のみなもとさ。それがあるから、転生者は異常なまでの力を使えるんだって、エリアルレーネは言ってた。おチビの剣も、俺の魔手も……な」


 フドウくんは、夏のあの日……【ハバン洞穴】で私を転生者だと決めつけていた。

 それは、【女神エリアルレーネ】から聞いた情報と、お母さん?の予言とか言う物の賜物たまものって事かしら。


「フドウくんは……それって、かなり重要な話……よね?どうしてそれを私に?」


 ましてやこんなにも口軽く、堂々と。


「ん?……ああ、そんな事か。そりゃ決まってるさ」


「……なに?」


 フドウくんはカツカツと再度、私に近寄って来て。

 グッと顔を迫り……言う。


「あんたが帝国で俺と共闘する未来を……知ってるからだよ」


「……」


 それは、決めつけられたような言い方だった。

 もう避けられない、運命のように。

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