6-87【転生者、その存在価値1】



◇転生者、その存在価値1◇


 女子寮の窓から抜け出して、街を歩く。

 ここにいたら、また鉢合わせる可能性を考えてそうした私……クラウ・スクルーズ。


 らしくない……本当にらしくない。

 弟が女の子と仲良くして何が悪い。そんな事、逆に喜ばしい事じゃない。

 それが何故なぜ……私はこんなにも――苛立いらだっているの?


 今頃、二人は……仲良くお話でもしているんだろう。

 いい事、いい事なのよ。絶対にいい事、いい事!!


「――ふんっ!」


 スカートのポケットから取り出した焼き菓子のゴミを、私は思い切りゴミ箱目掛けて投げつけた……しかし。


 カッ……と、はしに嫌われて外に落ちた。

 私は「ちっ」と舌打ちをして、ゴミを拾い上げて捨てる。

 思い切り、力いっぱいに、打ち付けるように。


 そんな私の視界のはしっこに……人影が入り込んだ。


「――かははははっ!随分と荒ぶってんねぇ、ミオっちの姉ちゃん!」


 その人影は、お腹を抱えて笑っていた。

 黒い髪に黒い瞳、この世界でたった一人の……日本人。


「……ユキナリ・フドウ……くん」


「よっと。あ~、いちち……」


 ベンチから立ち上がり、お腹をさすって私に近付く。

 私の事を笑ってお腹を抱えていたと思ったけど、どうやら腹痛のようね。


「どうしたの?お腹……」


「ん?ああ、試験で張り切り過ぎっちゃってさぁ。俺の能力って、力を発動する度に……腹痛が起こるんだよな~」


 はい?何を……え?マジの情報?

 この男、自分の能力の情報を……こんな簡単に、こんなにもあっさりと喋ったの?

 ば……馬鹿なの??


「あれ?ミオっちの姉ちゃん、どうしたそんなすっとんひょうな顔をして」


「……」


 馬鹿だ。


「すっとんひょうじゃなくて頓狂とんきょうね……フドウくん」


 あきれるほどに明るく、そして何も考えていないような言動。

 まるで幼稚な子供のようだわ。

 自分が誰かに嫉妬しっとしているのが、おおよそ馬鹿らしく感じる程に。


「え、そーなの?」


「そうよ。勉強しなさい」


「えー……いいじゃん、意味は同じだろ?」


「――意味とかそういうのじゃ無いのよっ!」


 フドウくんは「ちぇ……」と口をとがらせて両の眉尻を下げる。

 本当に子供みたいね……転生者のくせに。

 前世ではどんな人物だったのだろう、この男。

 まるで教養のない様なその思考は、私にとって不純物のような物だ……それでも、目新しさだけはある。だけはね。


「かはははっ、おっかねぇ~!」


 イラッ――


「この……ボケっ!」


 ブン――と、痛めている腹に一撃加えてやろうかと思ったのだが……フドウくんは右腕を突き出して、私の頭をつかんだ。

 こう……むんずと。


 スカッ……と空振り。


「ぐっ……こ、こら!」


「はっはっは!届かんだろぅ、おチビちゃん!」


 だ……誰がチビですってぇぇぇぇ!


「――【クラウソラス】!」


「え」


 ドシューーーーン!


 丁度いい距離感から、私は右手に【クラウソラス】を出現させて。

 そのままフドウくんの腹に突き刺してやった。

 勿論もちろん、最小限まで出力を抑えると言う温情を持って。


「ぐっ……のぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 グギュルルルルルルルルル……途端に顔色を悪くするフドウくん。

 真っ青な顔で、両腕で腹を抱えてうずくまった。


 ふん、いい気味だわ。


「誰がチビですって?」


「す……すびばぜんでじだ……」


 有名なアスキーアートのようにぐたりと倒れるフドウくんに、少しは気分が晴れた気がした私だった。


 はぁ……すっきりした!!

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