6-86【誓いは未来の為に2】



ちかいは未来の為に2◇


 俺とミーティアは、マジでクラウ姉さんが何を考えているのかが分からないまま、噴水広場へと向かった。

 【ステラダ】中央通り。交易所や小規模の商会などが、多くの店舗を構えるその場所には、街の人々がいこいの場とする物も存在する。

 その一つが、いくつもの魔法の道具を使用して造られた、大噴水だ。


「マジで何だったんだろうな、あの人」


「……」


「はい、ティア」


「え、ええ……ありがとう」


 ここに来るまでに買った飲み物をミーティアに渡す。

 遠慮気味に受け取り、ゆっくりとベンチに座り、カップをさするミーティア。

 何かを考えるように、指でスーッとなぞって水滴をすくった。


「ティア?」


「あ……うん。クラウ、少しあれかな……?」


「え……」


 ああ、クラウ姉さんの話をするのか。

 俺は飲み物を持ちながら立っている訳にもいかず、ミーティアの隣に腰掛ける。

 試験の話をすると思ってたから、少し意外だな。


「クラウ、もしかしてなんだけど……」


「もしかして、なに?」


 あれ、ミーティアはクラウ姉さんがおかしかった理由……さっしがついてるのか?俺と同じで分かってないと思ってた。


「もしかして……あの子……やきもちを焼いてたのかなって」


「……はい?」


 や、やきもち?クラウ姉さんが?誰に?俺に?ミーティアに?

 やばい、混乱する……まったくの見当違いだったんだが。

 しかし、それでもなおミーティアは真剣な顔で言う。


「私とミオが仲良くしてたから……かな」


「は――は!?いやいや、ちょっと待とうティア」


 俺は座ったばかりのベンチから速攻で立ち上がって、ミーティアの言葉を否定に入る。


「ティア……なんでクラウ姉さんがやきもちを焼くんだよ、しかも……その言い方だとさ、ティアにやきもちを焼いたことにならないか?そんなのおかしいって……」


 そうだろ、だって俺とクラウ姉さんは姉弟だ。

 例え転生者としての共通点があろうとも、名も顔も知らない相手に好意を抱く訳はない。

 少なくとも、俺にその気はないし……姉に恋愛感情を抱いたら、もう十八禁に発展しちゃうだろ。


「……分からないよ、自分では」


「え?」


 ぼそりと言ったミーティアの言葉は、俺の耳に届かなかった。


「女の子にしか分からない事があるのよ……きっと、それだと思う」


「そんな事、言われてもな……どうしろと」


 俺は噴水広場で遊ぶ子供たちが沢山いた。

 中には俺とクラウ姉さんのような、姉弟と見れる子たちもいる。


 考える。


 クラウ姉さんが、ミーティアの言う通りにやきもち……嫉妬をしていたとしたら。

 可愛い弟が他の女に取られるとか、仲の良い様を見るのが嫌とか……そんな事じゃなくて、マジの嫉妬……女としての怒りだったら。


「いや……ないだろ」


「……はぁ」


 短いミーティアのため息に気付かないまま、俺は考えを続ける。


 どうすれば、そんな考えになれるんだよ……と。

 姉弟だぞ。確かに、可愛いし強いし、魅力的だと思うさ。

 でもそれは、姉としてだ。誇れる姉。

 それは村に居るレイン姉さんやレギン母さんも同じ……俺は前世の記憶を持っていても、この世界で生まれたミオ・スクルーズなんだ。

 家族……なんだから。


 だけど、いくつもの可能性の中で……クラウ姉さんが、俺を――前世の俺を知っていたとしたら?

 前世の俺……武邑たけむらみお

 そんな冴えない男を、知っている人物で……仮にも好意を抱いていたとしたら。


「……まさか、な」


 転生者としての話をしなければならない……そんな考えが、俺の中で固まった。

 全てを包み隠さずに話し、お互いに理解を深めなければ駄目だと……俺はちかった――未来に向けて。

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