6-85【誓いは未来の為に1】



ちかいは未来の為に1◇


 なんだかゆっくり歩いたな。

 クラウ姉さんとは、本当に腹を割って話せるようになった気がするよ。

 それこそ姉弟ってだけじゃなく、転生者として。

 始めは転生者バレをして「やっちまった……」と思ってたけど、ふたを開けてみればこんなにも身軽で、なんでも話せる関係になるとは。


「そろそろ着くわね、女子寮」


「だね……それ、美味い?」


 道すがらで多くの話をした。

 その中で、姉さんは屋台で買った焼き菓子を食いながら言う。

 俺もつい、気になって聞いてしまう。


「美味しいわよ?食べる?」


「ん」


 差し出されたそれに、俺はかぶりついた。

 パクっと、食べかけの焼き菓子を。


「あ」


「え?なに?」


「う、ううん……なんでもないわ」


 美味いな……砂糖はそこまで回ってないけど、充分甘い。

 蜂蜜はちみつかな?

 つか姉さんはなんで赤面してんの?

 もしかして間接キスとか、そんな事?


 誕生日にマジキスしてくるような人が、なにをそんな清楚な乙女のような事を……――って、そ……そうか。

 転生者だから……今世では血の繋がった家族でも、前世では赤の他人。

 顔も名前も知らないそんな人間と間接キスなんて……普通はしないっすね!!


「えっと……あ!ティアがいるっ……!」


 寮の前で、丁度出て来たのか……青い髪の少女がいた。

 だから俺は話題のすり替えに転嫁した。その方が、お互いにいいと思ったし。


「そうね……あ、気付いた」

(ん?ティア??)


「――ミオっ!!」


「ティア、試験……」


「私!やれたのっ!きちんと、やれたっ!」


 目を見開いて、顔を赤くしながらぴょんぴょん跳ねて、俺の腕を掴んで喜ぶミーティア。

 何この生物……かわいすぎか。


「お、おう……やったな!!」


 討伐が成功したのは知っていたが、合否までは見て無かったからな。

 まぁ……横の人にネタバレ食らったんだけど。


「私もいるんだけど」


「そ、そうだ。ティア、クラウ姉さんに最近あった事、話したよ……平気だったか?」


 事後報告で申し訳ないのだが。


「ええ、平気よ……クラウには、当然話さなきゃダメだと思ってたし」


 クラウ姉さんは腕組みをしている。

 焼き菓子のゴミはどうした?まさかポイ捨ては……ああ、スカートのポケットにあるっぽい……直で入れたの??


「なんだか、随分ずいぶんと二人……仲良くなった?あだ名で呼んでるし……」


 え?そうか……ミーティアを俺だけの呼び方で呼ぶって事は言ってなかった。

 重要ではないから、省いてもいいものだと思ったけど……あれ?

 なんか怒ってます?気のせい?


「え、ええ。その……二人の間の呼び方って事にしたんだけど……え?クラウ怒ってない?」


 ミーティアも同じ感想だったのか、戸惑いを感じながらも聞いてみていたが。


「――怒ってない」


 いやもう空気が怒ってるんだって。

 それは二人共同意見だしな。


「怒ってるじゃん」

「怒ってるよ……」


「――怒ってないわよ!」


 激ギレじゃねぇか!!


 バシッ――!!

 いってぇ!殴られた!


「なんでっ!?」


「知るかっ!自分の胸に聞いてみなさいよっっ!私、部屋に行くからっ!」


「――はぁっ!?ちょ、姉さん!?話は!?」


 俺の後頭部を思い切り殴っておいて、謝りもせずにズカズカと大股で寮へ入って行くクラウ姉さん。

 俺は、呆然としながら……訳も分からず、その背中を見届けるしか出来なかった。

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