6-84【短いようで長い試験の終わり4】



◇短いようで長い試験の終わり4◇


 女子寮への道すがら、秋の出来事を互いに話す。

 俺の事、ミーティアとの今後の事、村での出来事の事。

 クラウ姉さんの事、試験の事……色々だ。

 そんな中での、クラウ姉さんの第一声が……こうだ。


「村に帰ったの……ズッルい」


 普通にへこんでるし……


「仕方ないだろ、本当は姉さんも帰れればいいと思ってたけど、急だったし。それに、マジで大変だったんだからな?」


「それは分かるけど……納得はいかない」


 なんでだよ。

 この人、そこまでホームシックになるような性格じゃない筈なんだけど。


「そんなに帰りたかった?」


「――いや。それよりも、私に色々と隠し事をしていたアイズが気に食わないわね。一発殴ってやりたい」


 おいおい……俺の話聞いてた?

 アイズの状況も、アイシアの事も……同じ転生者であるクラウ姉さんだから言えたんだけど。

 それにリアの事だって相談したいのに……


「殴るのは……まぁあいつが死なないでくれるのなら、いいけど」


「あの女がそう簡単にくたばるとは思えないけど」


 それはそう。

 そうであって欲しいと思うよ。今後もさ。


「そうさせないようにしたいんだよ。アイズが消えたら……次のアイズが生まれる。もしアイシアがそうなったら……俺は」


「いまいち理解は出来ないけど、女神アイズの言う事は真実なんでしょ……日本にいたままだったら、ゲームのやりすぎとか漫画の読みすぎとか言って相手にしないけれど……ここが異世界だって分かるもの、どんな因果いんがか知らないけど……受け入れる事だけは出来るわ」


 クラウ姉さんは寛容かんようだな。

 俺はまだ、受け入れたくなくて足搔あがいているってのに。


「それに……アイシアがいなくなる訳じゃないんでしょう?」


「それは、そうだけどさっ……でも、アイシアが女神だなんて……させたくないよ」


 それにアイズだって、あんなアイズを見たら……きっとクラウ姉さんだって思うはずだ。

 俺と同じ思いを、抱くよ……


「アイシアには言ってないんでしょう?その……EYE’Sアイズだっけ、ややこしいわね」


「……うん」


「方法はないって決まった訳じゃないなら、探せばいいわ。アイズが無理だって言ったって、それは全部じゃないはずよ……あの女は、自分の都合だけで話してる時がある……それは私も、転生する時にもう理解したわ」


 確かに……あいつの話は自分の都合が多分に含まれてる気がするけど。

 それでも、事実は事実じゃないか。


「時間は数年。ならその間に探せばいい……全部を助ける方法を、皆がハッピーエンドを迎えられる方法を。無責任だけど……言うのはタダよ。理想を持って何が悪いの、そうでしょ?」


「……姉さん」


 そうだ……よな。

 誰もが報われるそんな世界……甘ったれなのは分かる。

 そんな世界が存在しない事も百も承知だ。

 理想は理想。夢は夢。


「それを目指すのは、けっして高望みじゃないわ。望むことに、犠牲を含むなんて間違ってるのよ……だから、せめて望みなさい。全部やってやるって、全部救ってやるって……自分が主人公だって、強く……思いなさい」


「俺が……主人公」


 俺の物語の、俺だけの物語の……主人公。

 はは……言ってくれるよな、この人。

 どっちが主役なんだか分かんないようなセリフだって。


 折れる時だってあるだろう。迷う時だって今までだって沢山あった。

 それでも進んで、異世界で十五年……こうして生きてきたんだよな。


「全部を……」


 俺のちっぽけなてのひらに、どれだけの人の人生を包めるだろうか。

 救えるだろうか……いや、違う。

 思うんだ。クラウ姉さんの言うように……救うって、守るって。

 高望みだっていい、夢の見過ぎだっていい。


 ミーティアの夢、アイシアの生きる道、アイズの存在。

 全部望んだって……悪い事じゃないんだ。


「――ははっ。あはは……」


「な、なによ急に」


「や、ごめん。急に自分が馬鹿らしくなってさ……しかもこんな道を歩きながら、なんて話をしてんだって思っちゃって」


「きゅ、急に冷静にならないでよっ!私だって変なことを口走って恥ずかしいんだけど!!……まぁでも、らしいんじゃない?」


 背中を向けたまま、クラウ姉さんは先行して歩いていたが。

 突然、急ぎ足になって駆けて良く。

 恥ずかしかったなら、そこまでしなくてもいいのにな。


 でも……ありがとう、クラウ姉さん。

 俺は望むことにするよ。例え未来で何かを失うことになっても、最後まであきらめない。

 全部を救ってやるって気持ちで、俺が主人公だって思いで……俺は進むってちかうよ。

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