6-83【短いようで長い試験の終わり3】



◇短いようで長い試験の終わり3◇


 真っ先に出会ったのは、小さな女の子……言わずもがな、クラウ姉さんだ。


「「あっ」」


 寮から直ぐの出会い頭で、ぶつかりそうになった。

 魔力の調整してないと、反応しないんだな。

 ウィズも、悪い反応以外は言わないからたちが悪い。


「ミオ……おつかれ」


「う、うん。姉さんも……ってか、久しぶりだね」


「……そうね」


 プイっと、そっぽを向く姉。何故なぜ??

 久しぶりだからか……?

 姉さんは遠征任務で遠くに行ってたんだけど、そこまで余所余所よそよそしくならんでもいいのに……ちょっとへこむぞ。


「姉さんは、これからどこかへ?」


「……は?」


 ジロ……と俺を睨む。なんで!!

 そして呆れたように、分かりやすくため息をいて言う。


「はぁ……私が男子寮まで来てるんだから、ミオに会う為でしょうが……まったく」


「え。だって他の場所かもしれなかったし……」


 首席のクラウ姉さんなら、他の生徒に用事でもおかしくないと思ったんだけど。


「男子寮まで来る用事なんて、弟のミオ以外にないでしょう?」


「……そう、かなぁ?」


「ちょっと、なによその反応。まるで私が男に会いに来ているみたいじゃない!」


 そ、そう言う事じゃないです!

 俺の反応が気に食わなかったのか、クラウ姉さんは俺のすねを蹴りながら言う。

 ゲシゲシと、連続で。


「……ミオと!ミーティアが!別れたって!聞いたから!気になって!来てあげたんでしょ!!」


「ちょっ!言い方ぁ!……別れたってなに!別にまだ付き合ってないっての!」


 すねを蹴られ続けたまま、俺はその言葉を否定する。

 確かにパートナー関係は解消したが……別れた、ってなぁ。

 まだお付き合いもまだなのに……そんな不吉な事を言わんでくれ、頼むから。


「だって、あの子……イリアと組んだって、どうして?」


「それは……クラウ姉さんが遠征でいない間に色々あってさ」


「――色々ってなによ!まさか、あんた乱暴したんじゃないでしょうねぇぇぇ!!」


 首をつかんでくる姉。


「グェェ……し、しないってそんな事!する訳ないだろっ……苦し、苦しいって!」


 パッ……と手を放す。


「……そう。まぁ当然よね、してたら末代までの恥じよ?」


「な、なんで俺がそんな事をすると……少しでも思われたのがショックだっつの」


「冗談じゃない。ほら……こういう世界では、あまりとがめられないでしょう?性犯罪とか……」


「……確かに」


 そうやって考えるのはいいけど、俺が性犯罪を犯す想像はやめてくれよ。

 仮にも善良な日本人だったんだぞ、俺は。


「でもさ、マジで色々あったんだって……ゆっくり話したいけど――」


「ミーティアの所に?」


「え、あ~うん。そういう事」


 これからの行動に予測がついたのか、クラウ姉さんはくるりと回転して言う。


「なら、行きましょう。ミーティアは合格してるし」


「――は」


 だぁぁぁぁぁ!ネタバレすんな!

 クラウ姉さんなら首席だからチェック出来るんだろうけども!


「ふふっ。ごめんごめん」


 口元を隠して笑うクラウ姉さん。

 その瞬間、その一言がわざとだと気付いた。


「わ、わざとかよ!たちわりぃな!」


 その笑顔に、俺は怒る気さえなくして。

 二人で女子寮へ向かう事にした。

 でも……久しぶりに感じた姉との何気ないやり取りが、やはり心地の良い物だと、再認識した俺だった。

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