6-82【短いようで長い試験の終わり2】



◇短いようで長い試験の終わり2◇


 【ドルザ】討伐を見届けた俺は、【紫電しでん】でさっさと草原を離れる。

 バレては意味がないからな。【魔力溜まりゾーン】も消したし、周辺への被害もない。俺は三日間、ここで野宿キャンプをしてただけです、はい。


 そんな言い訳を心の中で完結させて、【ステラダ】に戻った俺は寮へ。

 疲れはそれほどない。せいぜい地べたで寝てたせいで背中が痛いくらいだ。


「そういや……試験終了は五日だっけ?」


『試験内容によっては多少の誤差がありますが、おおむねそうです』


 距離的に、ミーティアたちが帰ってくるのは朝から昼にかけてだ。

 それまでは……


 ボフン――と、俺はベッドに倒れ込む。


「……寝るわ」


『はい』


 『おやすみ、ミオ』……と、とても優しい声音こわねでそう言われた気がしたが、俺は一瞬で眠りに入っていた……それだけ疲労が蓄積ちくせきしていたんだと、翌朝になって気付かされたよ。


 それにしても……ウィズ、だよな……?





 翌朝……疲れを癒した俺は、目覚めの良い朝に気分を良くして珈琲コーヒーなんて淹れちゃったりして。

 わざわざ豆から買って来て、コーヒーミルでいてみたりさ。


「うん。前世で飲んでたのに近い……やっぱブラックだわ」


 実は甘いのが苦手な俺は、もっぱら苦味と辛味を求める舌の強い男なのだよ。

 素材の甘さとかは気にならないんだが、どうも人工甘味料がなぁ。

 糖質ゼロとかカロリーオフとかさ……基本的に信用しないんだ。


ひねくれていますね。面倒臭めんどうくさい』


 自分でも分かっているさ。

 それだけに、村での野菜の美味さはマジで度肝を抜かれたんだ。

 別にベジタリアンとか、動物性食品を摂らない訳じゃないし、普通に食うけどさ。


素朴そぼくな味がいいんだよ、それこそ村の野菜のような……シンプルイズベストって言うだろ?」


『はぁ……』


 分からんならいいさ。

 でも、そうだな……村の野菜か。

 ミーティアが店を出すなら……どうにかして回したいところだが。


『【クロスヴァーデン商会】が良しとしないでしょう』


 だよなぁ。

 もともと独占だ、父さんとダンドルフ会長さんの間で折り合いもついてる。

 そこをさらうわけにもいかないからな。

 それくらいの事は理解してる。


 俺がミーティアの店を手伝うにしても、【スクルーズロクッサ農園】の野菜は使えないって事だ。

 別の方法なら……いくらでもあるしな。


 俺はにやりと笑う。

 右手の平に乗る、小さな種を見て。


「あ。そうだそうだ……【オリジン・オーブ】。ついつい忘れちまう」


 思い出したように、机へ向かう。

 引き出しの中には、ベッドに忘れたままだったその宝珠オーブがしまってある。


「持っておこうか……一応」


 それを腰のポシェットに入れ、俺は外にでる。

 そろそろ試験の結果を聞くために帰って来た二人がいるだろうからな。

 どうだったんだろうな……他の皆は。


 クラウ姉さんは大丈夫だとして、先輩たちも気になる。

 特に、よくしてくれたレイナ先輩やロッド先輩とかな。

 後は……あの馬鹿だ。

 最近は静かだと思っている、ユキナリの奴。

 あいつだって一年生、特例があるとはいえ試験は試験だ、どうなったか気にはなる。

 いっその事落ちてろって思うのは……フラグだろうか。


 そんな事を考えながら、俺は女子寮に向かうのだった。

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