6-81【短いようで長い試験の終わり1】



◇短いようで長い試験の終わり1◇


 ミーティアとイリアのコンビの試験対象である、馬獣【ドルザ】。

 二人は粘って粘って、三日目でとうとう遭遇エンカウントした。


「出たぁぁぁぁぁぁ!!」


『白々しい……』


 ウィズの言葉を、俺はガン無視する。

 仕方ないだろ……この三日間、俺は死ぬほど暇だったんだ。

 だからわざと魔力を暴発させて人工の【魔力溜まりゾーン】を作って、そこから魔物が出ることは必然的だ。

 それが二人が狙った魔物だったのは偶然。そう偶然だ。

 例え何度も繰り返してリセマラしてたとしても。


『夜にしか出現しない魔物が偶然ですか』


 そうだ。偶然なんだよ!!

 確かに今……ここには大量の【ドルザ】が山ほどいるよ、俺を睨んで、よだれを垂らしてさぁ!

 だからその中の一匹があっちに行ったって、なんら不思議じゃないんだよ、うるせぇな!!


『逆ギレですか。それに……あまりにも過保護ではありませんか?計算上、この魔物の出現周期は……四日に一度確実です。明日になれば、おのずと現れていましたが』


「なっ――早く言えよ!!ホントそう言う所があのポンコツ女神にそっくりなんだが!分かるかお前!?」


『心外です。それに、さっき逃げた一匹に……しれっと【無限インフィニティ】でダメージを与えましたね?』


「うっ……す、少しだけだろ!ケツに針を刺しただけだし!ダメージにはならねぇから!」


『ですがあちらへ向かう切っ掛けになりました。それを狙ったのでしょう?』


「うるさいうるさい!ウィズお前黙れ!シャラップだ!」


 これ以上は不正を疑われるだろ!


『誰にです』


「各関係者様だよ!」


 それに、【魔力溜まりゾーン】から出現したのは事実だ。

 そこから逃げた魔物が周囲の冒険者や学生を襲うのは当然……たとえその一匹が試験の対象でもな。

 だから……倒すのだけは二人にやらせるんだろ。


『当たり前です』


 分かってるよ。俺の徒労だって事も、過保護だってのも。

 だけどな、俺はそれでいいと思ったんだ。

 これは俺の我儘わがままだ。俺の未来のために、築き上げるために、欠かせない人材を引き離される訳にはいかないんだ。


「残りを片付ける。ウィズ……何体いる?」


『……はぁ……十六体です。【エイムザール】に比べれば、楽です』


 理解してくれたウィズの探索で、周囲に散らばってしまった【ドルザ】の反応もチェックする。


「他の生徒も数人いるからな……そいつらの所に魔物が行かねぇように倒して、【魔力溜まりゾーン】も消す。いいな?」


『はい』


 よっし。じゃあ残りの魔物退治だ。

 すぐに終わらせて、二人の戦いを見届けるぞ。


『助力はいけませんよ?』


「分かってます!!」


⦅本当でしょうね……⦆


 そうして俺は、誰にも知られない戦いをしていた。

 これは不正ではなく、ちょっとしたアクシデントだ。

 いいな?アクシデントだから。





 二人の戦いは見事だった。

 俺は一瞬で魔物を倒して、しっかりと見届けた。

 勿論もちろんの事、手出しはしていない。

 危なげなく倒せたし、明日には出現していた事を考えれば、マジで俺の徒労だったかもしれん。


「イリアの奴、【念動ねんどう】の操作上手くなってんな……ティアも、上手くサポーター出来てるじゃないか」


 イリアがアタッカーだったのはおどろいたし、ミーティアも上手く立ち回っていた。

 イリアの邪魔をしない様に立ち位置を調整して、【念動ねんどう】で浮いた剣撃の隙間をっての弓矢の攻撃。

 やっぱり、周りを見るのは得意なんだな。


『戦闘時間は十二分……まぁまぁです』


 マジか。そんなにかかってた気はしなかったけど。


『ご主人様は良い所しか見てませんから』


「うっ……おいおい、シビアな事を言うなよ。いいだろ成功したんだからさ、別に違反をしたわけじゃないし、誰かの手も借りてない。アクシデントで魔物が別の場所から来ただけだ」


『それだけではありません。二人はあの魔物に集中しすぎて、他の魔物の事をおろそかにしていました……それは致命的です』


「それは……まぁ。試験の合否には関係ないから……」


 しかし、ウィズの言う事も分かる。

 もし、これが冒険の最中や、戦争状態だったら……きっと二人は危険だ。


『冒険者志望ではないミーティア・クロスヴァーデンと、戦闘力にとぼしいハーフエルフのキルネイリア・ヴィタールでは……二年生になる方が苦行だと進言します』


「……」


 元も子もない事を言うね、この能力さんは。

 人の成長を……もっと信じさせたい。

 【叡智ウィズ】の言う事は、確かに正論かも知れない。

 商人気質であるミーティアは、無理に冒険者になる必要は……無い。

 イリアは、その血筋から言って……難しい道だ。


 だけど、二人が目指したんだよ。

 それを見届けてやるのは、関係者である俺が適任てきにんだ。


 ミーティアは俺といる為に、俺と並んで未来を歩く為にさ。

 イリアは、その生まれ持った血と戦って、乗り越える所まで来た。

 確かに俺の助力はあったけど、それでもかたきと戦ったのは自分の選択だ。


「ウィズ。これから先……俺が、俺たちが見せてやるよ」


『――何をでしょうか?』


 そんな事、決まってんだろ。


「お前や女神あいつの計算を……人が超える所を、だよ」


 この言葉を、よく覚えておけよ。

 きっとおどろくさ、俺やクラウ姉さんだけじゃない……ミーティアやアイシア、それに他の皆の成長に。


 未来は……自分の意志一つで、変えられるんだからな。

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